EP7:スターリンの野望

1928年11月18日。

【蒸気船ウィリー】という世界初のトーキー・アニメーション映画が公開された。

この映画によって、アニメに音という概念が加わり....今現在のアニメの原型が出来ていた時期でもあった。

しかし、男がスターリンに転生した時期はまだ【蒸気船ウィリー】は公開されてはいなかった。

だが....前世が生粋のアニメ大国の国民だったスターリンはアニメの底力を理解していた。

アニメがあるからこそ、人々は今日という名の日々を生き抜くことが出来る。

スターリンはそう思ったからこそ、アニメ産業に力を入れようと思ったのだ。


「あ、アニメで国民の心を掴む....ですか」


そんなスターリンの言葉に対し、幹部達は顔を引き攣らせながらそう呟いた。


「あ、一応言っておきますが....私はプロパガンダは好きではないので、そこら辺の自由はある程度承認しようと思います」

「「「「「.......は?」」」」」


スターリンがそういうと、分かりやすく言葉を漏らす幹部達。

普段なら情報統制を容赦なく行うあの閣下が言論の自由を認めた。

これも記憶喪失の影響なのか?

幹部達は冷や汗を垂らしつつそう思っていた。


「言論統制をしていては面白いアニメは作れませんからね」


スターリンはそう言った後、日本から取り寄せたであろう緑茶を飲むと


「で、ですが....それでは閣下に不都合なのでは?」


一人の幹部は恐る恐るそう言った。

その言葉を聞いたスターリンは


「不都合?むしろ好都合ですよ」


ニッと笑いながらそう言った。


「....というと?」

「世の中は良いニュースばかりではありません。かといって、こちらの都合の良いニュースばかりを流しては国民の反感を買います。だったら、言論の自由を認めた方が手っ取り早いと思っただけです」


スターリンの言葉に対し、幹部達は反論する言葉すら浮かばないのか....その場にはナイフとフォークの金属音が静かに鳴り響いた。


「それに....創作には柔軟な頭が必要ですからね」


再び緑茶を飲んだ後、そう言うスターリン。

あぁ、閣下は本気だ。

幹部達はスターリンが本気であることを理解したのか、それともこれ以上苦言を言うことを諦めたのか.....全員下を向いていた。


「私は別に批判とかされても構いませんよ。というか大歓迎です。まぁ、ここにいる皆さんがどう思っているのかは別ですけどね」


スターリンが遠回しの圧を掛けたことに対し、幹部達はビクッとした後.....これは厄介なことになったぞと内心思ったのは言うまでもない。

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