EP2:独裁者の演説

とある男がスターリンに転生してから数日が経ち、今現在のスターリンはモスクワ市内にある広場にいた。

部下から、暗殺から立ち直ったこの状況を利用して卑劣な暗殺犯を糾弾し、民衆からの支持を集めるのが目的だと聞かされたスターリンはただ一言


「そんなことで人気を集めるなんて、世も末だな」


そうポツリと呟いた。

そして、別の部下から演説の原稿を渡されるとまた一言


「これ、長くないか?」


めんどくさそうに呟いた。

そんなスターリンの様子を見た部下達は、自分の上司が本当に記憶喪失になったのだと信じたのか、ポカーンとした顔になっていた。

呆然としている部下達を尻目に、スターリンは嫌々ながら広場に作られた演説会場にて、演説を始めた。


「あ〜、えっと....その、初めましての人は初めまして、二度目の人はこんにちは。ヨシフ・スターリンと申します」


そう言った後、ペコリと頭を下げるスターリン。

一方、スターリンの様子を見た観衆達は部下達と同じようにポカーンとした顔になった後


「閣下、何かおかしくないか?」


と小声で呟く者がチラホラ現れ始めた。

しかし、それでも視線はスターリンの方に注がれていて、スターリンは広場に居る観衆に向けてこう言った。


「まぁ、皆さんがコイツ何言ってんだ?って思うのも無理もないですよね。文句を言うなら記憶喪失の人間を無理矢理引っ張り出した政治家達に言ってください」


スターリンがそう言うと人々はザワザワし始め.......遠回しに文句を言われた幹部達の顔は青ざめていたのは言うまでもない。


「というか、私自身は暗殺されてもおかしくはない人間ですよ。だって、同じ志を持つ仲間をあの手この手で追放する人間を恨まない人はいませんから」


これは相当ヤバいぞ。

物腰が柔らかではあるもののどこか毒のあるスターリンの演説を聞き、真っ青どころではない顔をしながらそう思った幹部達は、急いでスターリンの演説をやめさせようとしたが


「あ!!コイツらです!!コイツらが私を引っ張り出した張本人です!!」


逆にスターリンは彼らを指差しながらそう言った。

その瞬間、人々の視線が幹部達に集まったのは言うまでもない。


「そういうわけで、今の私には政治に関する知識もへったくれもありません。ですが....これだけは分かります」


スターリンはそう言った後、一息つくと.......続け様にこう言った。


「民主主義や資本主義よりも社会主義の方がよっぽどタチが悪い!!」


それは、社会主義という名の独裁の塊であったスターリンのイメージが変わった瞬間であった。

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