EP1:目覚め
1929年。
季節が春になる頃......モスクワのとある病院の一室にて、男はぼんやりとした様子で天井を見上げていた。
ここはどこだ?
目覚めて早々にそう思った男は、とりあえず状況確認のためにベッドから起き上がったのだが....男のその姿を目撃した看護師はどういうわけか慌てた様子でどこかに行ったかと思えば、その場に看護師や医者の他に見慣れない軍服を着た男達が現れ、ベッドの上にいる男に対してこう言った。
「閣下!!お身体は大丈夫なのですか!?」
閣下?誰だそれ?
俺はただの日本人だぞ?
男はそんなことを思いながら人々に対し、こう言った。
「あの.......俺、閣下とか呼ばれる程の人間じゃないんですけど?」
男はそう言った瞬間、猛烈な違和感を感じた。
何だこの重い声は?
俺、こんな声だっけ?
男はそう思いながら視線をずらすと.....そこには、こちらをジッと見つめる恰幅の良い体付きの男が写っていた。
男自身、鏡に映っている人物が誰なのかを察するのには時間は掛からなかった。
.....あぁ、俺は転生したのか。
よりにもよってあの独裁者、スターリンに。
「か、閣下?」
呆然とした様子の男....もといスターリンに対し、そう声を掛ける軍人。
その軍人の様子に気がついたスターリンは、咄嗟にこう言った。
「すみません、自分が誰なのかが分からなくて.....」
スターリンがそう言った瞬間、男達は騒ぎ始め....その光景を見たスターリンはそうなるだろうなと思いつつ、近くに置いてあった新聞を手に取った。
新聞には1928年と書かれており、スターリンは目を丸くした。
おいおい、あと一年後には世界恐慌が起こるのかよ。
何でこのタイミングでスターリンに転生したんだ?
新聞をこれでもかと握りしめながらそう思ったスターリンは、現実逃避するように再びベットに横になると
「騒ぐのなら病室の外でしてほしい」
騒ついていた男達にそう告げた。
それを聞いた男達はいそいそと病室から出ていき、スターリンのある病室は再び静寂に包まれた。
....あぁ、何でよりによってこのタイミングなんだ。
ベッドの上でそう思いながら、目を閉じるスターリン。
彼自身、この出来事を夢だと思い込みたかったみたいだが......男達の騒がしい声で目覚めてしまったスターリンは、ベッドから降りると男達に対して一言
「お前らは修学旅行中の小学生か!!」
そう叫んだ後、病室へと戻っていった。
その叫びを聞いた男達....もとい、幹部達は首を傾げながらこう言った。
「どうやら記憶喪失なのは本当らしい」
かくして、男のスターリンとしての人生が幕を開けるのだった。
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