隻眼の流れ星

上白糖 赤飯

現代人転生

 夜、星空の見える時、願え、隻眼の流れ星、来航する。有名な話だそうだ。私の生まれる前からあるらしい。さて――――


「二度までは叶えてやる」


 ある男の前に、真っ白な髪と肌を持つ人間が現れた。身体よりもさらに白いワンピースが、より一層彼女を透明にする。しかし、男を覗く赤い隻眼が彼女の存在証明をしていた。


「ほ、本当だったんだ!」

「本当だとも。さ、願いを言ってみ」


 女は不気味な笑みを浮かべた。企んでいるというより、これからの出来事を楽しみにしているようだった。


「えーと、その、い、異世界転生とか、駄目ですか?」

「へぇ、現代人っぽい願いだね。別に叶えられるよ」

「ほ、ほんと?」

「ただし、二度しか叶えられないけどね」

「二度、ですか?」

「うん、そう。だってさ、人間の目って二つしかないんだよ?当然じゃん」


 先程まで興奮気味だった男は、顔を青ざめさせ、若干筋肉の硬直が見られた。これは恐怖と同時に予想外の事が起きたときに出る現象だ。


「えっと、目を、取る?」

「貰うつったって、もぎ取るわけじゃないよ。眼球の裏には無駄に太い神経のあれがあるからさ。魔法でちょちょっとだよ。止血もするし、痛みもない。元々ないって感じになる。サービスで眼帯とか、義眼とかもあげるよ。特に心配はしなくていい。だけど、二度と視界は戻らない。どんな高度の移植でも無駄。契約だからね」


 その話を聞いた男は冷静さを取り戻していった。目の前の女が化け物や悪魔でないことを理解したからだ。しかし、人ではないことを覚えていた方が良い。


「お願いは、一回でお願いします」

「―――フッ、いいよ。好きにして」

「じゃあ、これの!世界みたいなので、お願いします!」


 女の前に出された本は漫画だった。それも、異世界転生ものだ。女は手に取り、内容を軽く洗った。


「ふぅん、中世ヨーロッパが舞台で、魔法か。ま、いいんじゃない?そんなことより、目はいいの?二度と戻らないよ?」

「大丈夫です!片目あれば、何とかなりますよ!」

「まぁね。しかも、隻眼ってなんかかっこいいし、ちょうどいいじゃん」

「そうですよね?!」


 女は漫画を閉じ、近くにあった机へ置いた。部屋を見渡し、多種多様なグッズを一望する。そして最後に、男の方へと視線を戻した。


「じゃ、さっさとやるか」

「お願いします!よぉし!」

「さよなら」


 男はありとあらゆる穴から血液を出した。そしていつの間にか右眼球を失っていた。その眼球は女が握っていた。無駄に太い神経のあれが数センチ付いてぶら下がっている。


「良かったね、異世界転生できて。嬉しい?」


 女は意地悪な顔と言い方で死体と会話をした。死体は異世界転生をしてしまったようで返事がない。


「はぁ、馬鹿だなぁ。生きてればなんとかなるのに」

「どうだ?進捗の方は?」

「ん?まぁまぁ」


 突然、女の横へ幼女が現れた。声は子供そのものだが、喋り口調から精神年齢の不整合を感じる。


「まぁまぁ、か。君のその言い方にはうんざりだな。正直に上々と言えばいい。私は君を、正当に評価しているつもりだ。無駄に非難などしない。自信を持て、タルラ」


 タルラと呼ばれた隻眼の女は、文章口調の幼女をチラリと見た。幼女は死体をただ真っ直ぐと見つめている。タルラは音を出さずに鼻で笑った。


「見た目は子供なのに、なーんでそんな言い回しなの、いつも」

「見た目は問題ではない。本質が重要なのだ。君も分かっていると思うが、外見だけでの判断などくだらない。戦闘においては重要だろうが、これは対話だ。相手の精神状態、喋り口調、言語、あらゆる要素がそろって初めて判断ができる。君が最も得意としていることだ。端的に言うと、接客、だな」


「分かってるよ。何年の付き合いだと思ってんの?からかっただけ。いったいいつになったら学習すんだろうって」

「学習?随分と曖昧な表現をする。それはどういう意味だ?対応か?記憶か?まさかとは思うが、ツッコミなど待っているんじゃないだろうな?それだけは永久に訪れない。そんなことより、なぜ彼を殺した?最近、随分と殺しまわっているそうじゃないか。周りはお前の話で持ち切りだ。答えてもらおう」


「そんなこと?簡単だよ。異世界転生ってさ、よは死ぬわけじゃん?んで、死んだあとの世界じゃん?天国と地獄と同一。つまり、死が救済。分かる?」

「ここははっきり言おう。理解はできたが説明不足だ。君には専門性の知識がある。なぜそれらを使わない?私はそれを理解できないほど無知ではない。毎度言っているはずだが、私に対して無知を前提に話すのは止めていただきたい。これは傲慢ではなく、事実だ。私もそれなりに勉強をしている。これからの時代のためにな」

「はぁ、可愛いマスコットのくせに、なんでこうも………」


 手に持っていた眼球を飲んで姿を消した。

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