市川君、小学校にて

ダン羽音

いつまでも小学生

 30XX年、9月1日。市川君は学校に行く。枕元に置かれた服を着て、机の上に用意されたランドセルを持って。今日は夏休みが明けて最初の登校日、彼は町をマーキングするようにゆっくりと歩く。


 学校に着くと一番の仲良しの友達の松ちゃんが言う。

「おーい、学校久しぶりだからって緊張してんのか?夏休み何してた?」

 市川君はひねり出したかように言う。

「ぼくは、おじいちゃんの家に行ってきたよ。楽しかったよ。」


 数分後、松ちゃんは陽気な幼馴染でクラスの人気者でクラスの大野さんのことが好きで松ちゃんが大野さんのほうに行き楽しそうに話し始める。市川君は釣られて大野さんを見つめる。夏休み明けの大野さんは魅力的だった。


 松ちゃんと大野さんの話を盗み聞きしていると、先生が宿題を集めようとする。

「みんなー宿題忘れてないよな、じゃあここに提出しろよ~」

 市川君はみんなが宿題を出す様子を楽しそうに眺めている。先生は言う。

「おい市川。夏休みはどうだったか?宿題は全員出さないとダメだぞ」

 市川君はまたしても、言葉をひねり出す。

「先生、おじいちゃんの家に行って楽しかったよ。宿題は今から出します。」

 先生は余った時間でほかの生徒の夏休みの話を聞く。すると松ちゃんがクラスのみんなの笑いを誘う。

「おじいちゃんが俺の読書感想文をじぃーっくり読んで眉間にしわよせて俺に言ってきたんだよ。『じいじは老眼で読めない』。」クラスのスタートダッシュは大成功で。誰一人として休みが終わったことを寂しがらない、学校や友達のことがが大好きなクラスがまた再始動する。そうしているうちに夏休み明け初日の学校は終わった。


 市川君は家に帰ると学校で配られたプリントをお母さんに渡し、久しぶりの学校で起きたことを嬉しそうに話した。ただ1日を振り返るときに市川君は大野さんことを思い出す。「…お母さんそれじゃ部屋良くね!」


 市川君は今大人気のシュミレーションゲーム『それぞれのサマーバケーション~あなたもクラスメイト~』を終了しVRゴーグルを外す。タバコを握り公園に行く道中に市川君は思う。「なんか松ちゃんは人気でうぜぇな。」部屋に戻るや否やもう一度ゲームを起動して前回の自分自身のキャラではなく大野さんを選択する。


 30XX年、7月某日。大野さんは学校に行く。枕元に置かれた服を着て、机の上に用意されたランドセルを持って、ちっぽけで真っ黒な好奇心を背負って。


 VRゴーグルの向こうでは母親が夜ご飯の準備をする。

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市川君、小学校にて ダン羽音 @danhaoto

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