L侍

岩悠

第1話『2人の新人教師』

1人の侍が何者かの集団に襲われていた。


侍は膝をつき、頬や腕から血を流している。


「お前達は…いったい何者なんだ!」


それが合図のように、集団は侍に襲いかかってきた。


立ち上がり、目を閉じた侍は大きく深呼吸をして、右手の親指で刀の鍔を押し、左手で刀の柄を掴んで刀を抜いた。




「新任の教師はまだですか!?学園長!」


職員室で学年主任のシミットが、イライラしながらカルラ学園長に質問した。


「すみませーん!遅れ…ました!」


息を切らしながら職員室のドアを開けて、1人の女性教師が入ってきた。


「遅いぞ貴様!それでも教師なのか!」

「お待ちしておりました。ユリア先生」


学園長のカルラがユリアを隣に招く。


「今日、赴任してくるのは2人のはずでは?もう1人も遅刻とはふざけているのか!」


シミットがまた怒りだした時、職員室のドアが静かに開いた。


「あの、クリスタル学園の職員室はここで間違いないですか?」


「お待ちしていましたよクロガ先生。こちらへどうぞ」


「あ、すいませんすいません」


少し照れながらユリアの横に立つクロガ。


何か言いたそうな表情のシミットだったが、カルラ学園長が先に口を開いた。


「さぁ、職員会議を始めましょう。今日からこのクリスタル学園で教師として働いてもらいます。ユリア先生とクロガ先生です。簡単でいいのでお二人は自己紹介を」


「あ、はい!えっと…今日からここで教師として働かせてもらいます。ユリア・ブラニュン…ブラウンです!よ、宜しくお願いします」


「今日からお世話になります。クロガ・イチバと申します。宜しくお願いします」


シミットが何か言いかけたが、カルラは手を叩いてそれを阻止した。


「はいっ。それでは担当クラスを発表します。ユリア先生とクロガ先生は1年C組を担当してもらいます」


「ちょっと待って下さい学園長!2人で1つのクラスを担当するのですか?」


「はい」


「そんなの聞いた事がない。それなりの理由があるのですね?」


「理由ですか。しいて言うなら…クロガ先生が魔力が使えないからですね」



職員室がざわつく。


「待って下さい学園長。魔力が使えないと言いましたか?」


「言いましたね」


「ご存知でしょ学園長も。魔力が使えないと亜人は倒せません。ましてや、タレンターを育てる教師が魔力を使えないで何を生徒に教えるというのですか?」


「魔力による『デリ』は使えませんが、クロガ先生は武器による『デル』の能力は長けています。なので、クロガ先生には『デル』を、ユリア先生には『デリ』を教えていただきます」


カルラの発言にシミットのメガネがズレた。


「いや…ありえない。そんな事を世界政府が認めるはずがない!私たち教師は亜人を倒すことのできるタレンターを育てる使命を受けている。そんな重要な使命を、人類の存続がかかる使命を、世界政府が魔力を使えない奴に託すわけがない!」


シミットの意見が正しと誰もが思っていた。


亜人に世界の半分を支配されている今、そんな挑戦的な事をしている場合ではないと誰もが思っていた。


「いいえ。これは世界政府が決めた事です。嘘だと思うなら、世界政府に問い合わせてみて下さい」


カルラの言葉に嘘はなかった。


「いいですか!このお二人は私、カルラ・マキーレナ・フォステスが認めたクリスタル学園の教師です。私の決定に異議がある人はいますか?」


異議をとなえる者などおらず、沈黙が肯定となってクロガとユリアはクリスタル学園の教師となった。


「これから宜しくお願いしますユリア先生」


「こ、こちらこそ宜しくお願いします」


クロガの差し伸べた手を握ったユリアは、クロガの手の厚さに驚いた。


暫くすると入学式が行われ、首席入学のイヴ・アンダルティーノが新入生代表の挨拶をした。


入学式が終わると職員室で机にうなだれていたユリア。


「は〜。疲れた」


「何が疲れただ。まだ何もしていないだろ貴様は」


「シミット学年主任!申しわけありません!」


「まったく。教師が教師なら生徒も生徒だな。貴様らにはお似合いの問題児クラスかもしれないな」



シミットが職員室から出ると、入れ違いでクロガが職員室に入ってきた。


「どうしたんですかユリア先生?」


「また、シミット学年主任に怒られて…」


「新人教師ですからね、怒られるのも仕事のうちと思えば気が楽になりますよ。さぁ、教室に向かいましょう」


生徒名簿を手に取り、クロガとユリアはC組へと向かう。


並んで歩いていると、自分より背の低いクロガがどうしても『デリ』の能力に長けているとは思えなかった。


それに、見たことない剣を腰につけているのも不安の1つであった。


こんな小さくて細い剣でどうやって戦うのだろう?


不安は募るばかりだった。


「着きましたね」


「は、はい」


ドキドキしながら教室のドアを開けたユリアの目の前に、すでに学級崩壊をしている教室が目に飛び込んできた。


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L侍 岩悠 @harukaiwa

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