第41話「猫姫が知っていること」

「私の話って……そんな、大した話はできませんよ……? それに、私に教えたいというのは……?」


 ミャーが何を考えているのか読めないナギサは、慎重に言葉を選びながら尋ねる。


「私は……君の過去をあまり知らない……。でも君は……自分が何者なのかを……知らない……」


 ミャーは楽しそうにニヤッと笑みを浮かべながら、ナギサに近寄ってきた。

 その腕には相変わらず枕が抱えられているのだが、先程まで抱えていた自身の枕ではなく、ナギサの枕へと変わっている。

 寝転がった際にすり替えたようだ。


 ナギサは枕のことが気になりはするが、それ以上に彼女の発した言葉が気になっていた。


 言葉通りに受け取れば、ナギサは自身に対する認識が誤っており、本当のことをミャーは知っていることになる。

 だがそう考えるには、腑に落ちない点がいくつもあった。


「いったいあなたは何を知っておられるのですか……?」

「そんなに……身構えなくていい……。別に、取って食べたりはしないし……私が知っていることは……《始まりの英雄》の子孫なら……みんな知っていること……。そう……ブリジャールの国王とかもね……」

「――っ」


 ミャーは暗に、ブリジャールの国王はナギサに隠しごとをしている、と言ってきた。

 まるでナギサとブリジャールの国王の信頼関係を揺るがすような発言だが、ミャーの国はブリジャールと敵対しているわけではない。

 むしろ、ブリジャールの姫であるアリスとは親友の関係にあるように見えた。

 それなのになぜ、このような争いを生む発言をしているのかわからない。


 ましてや、ブリジャールの国王を心から信頼し、忠誠を誓うナギサからすれば、国王よりもミャーに対して疑いの念を抱くことになるものだ。

 自身の発言が、ブリジャールのたみであるナギサに対してどういう気持ちを抱かせることになるのか、ミャーが想像できていないとは思えなかった。


「大丈夫……いろいろと、教えてあげるから……。でも、それには時間がかかる……。ベッドで、話そう……」


 ミャーはそう言うと、ナギサの手を優しく掴み、ベッドへいざなおうとした。

 寝ながら話そう、ということなのだろう。


 しかし――

「すみません、まだお風呂に入ってないので……」

 ――ナギサは風呂に入っていなかったため、誘いを断った。


 まだ風呂に入れていないのは、例の如く風呂場で誰とも会わないようにするためなのだが。


「そういえば……シャーリーが、ナギサとお風呂に一緒に入る約束してるのに……いつも、逃げられるって言ってたね……」

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