第40話「猫姫の思惑」

「ミャーさん、いったいどうされましたか……?」


 ナギサはミャーの持つ枕へと目を奪われながらも、彼女に尋ねてみる。

 それによって彼女はニコッと笑みを浮かべ、部屋の中へと入ってきた。


「今日から……一緒に寝る……」


 すれ違う直後、ミャーはボソッとナギサに耳打ちをした。


「えぇ!?」


 間髪入れず驚いた声を上げるナギサだが、そんな彼のほうを振り返ったミャーは、今度はニヤッと意地悪な笑みを浮かべた。


「リューヒの許可は……下りてる……」


 どうやら、わざわざリューヒの了承を得て、彼女はナギサの部屋を訪れたようだ。

 めんどくさがり屋な彼女がそんな面倒なことをしてまで一緒に寝ようとしているのは、完全に外堀を埋めてナギサが断れないようにするためだろう。


 ここでもし断ってしまえば、王族に恥をかかせる行いだ。

 貴族であればそのような選択をすることはできず、もし断れば『本当に貴族なのか?』と疑いの目を向けられることになる。


 何より――ナギサは、ミャーに借りがあるのだ。

 生徒会長の許可までもらってきた彼女に対して、断れる理由がない。


 ましてや、自分は男だから一緒に寝るのはまずい、なんて言えるはずもなく。


「なぜ、一緒に寝るのですか……?」

「君は……強い……。一緒に寝れば……安全……」


 言葉通りであれば、ミャーはナギサを護衛にしようとしているらしい。

 もしアリスのように寝込みを襲われたとしても、ナギサなら守ってくれる。

 そう思っての行動であれば、まだ年端のいかない少女に頼られている以上、ナギサは断るわけにはいかないのだが――。


「本当の理由は、ただ面白がっているだけですよね……?」


 ナギサは苦笑しながら、ミャーに問いかけた。

 掴みどころのない彼女ではあるが、からかい好きだということはナギサも既に理解していた。

 そして、度胸が据わっていることもわかっているので、寝込みを襲われることに怯えるようなタマではないだろう。


 となれば、他に目的があるということになり――自分をからかいたいだけなんじゃないか、とナギサは思った。


「ふふ……それもあるけど……本筋は違う……」


 ミャーは楽しそうに笑みを零すと、ナギサのベッドに寝転がった。

 そのまま、スリスリと彼のベッドに頬を擦りつけ始める。


 十歳近く年下とはいえ、絶世の美女が自分の普段使っているベッドに頬を擦りつける行いに、ナギサは急激な恥ずかしさを覚えた。


 いったい何を考えているのか――そう思ってミャーの行動を見つめていると、ミャーは嬉しそうに口を開く。


「君の、話が……聞きたい……。そして……教えたいことも……ある……。だから、来た……。一夜じゃ……足りない……」

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