第32話「厄介なお姫様二人」
「――平和な日々だなぁ……」
休日、ナギサは庭に出て青空を見上げていた。
入学してから二週間ほど経ったものの、男が再び襲撃してくるようなことはなく、授業などの学園生活でも問題が起きることがないので、ナギサは退屈すら感じている。
冒険者時代は毎日忙しかったので、こういう日常も悪くないな――と思っていると……。
「平和は、いいことでしょ?」
「何か……問題でも……?」
私服姿のアリスとミャーが、ナギサのもとへ現れた。
二人の気配に気が付いていたナギサは、笑顔で口を開く。
「いえ……家では忙しい日々が続いたので、学校での日々は落ち着いてて幸せだなぁっと」
「ふ~ん……」
ミャーはナギサの話を流すと、ナギサに座るよう促す。
そして、ナギサが座ると――すぐに、ナギサの膝へと上半身を覆いかぶせてきた。
この体勢を気に入っているようだ。
「ちょっ、ミャーさん……!?」
「うるさい……」
またもや膝を枕にしてきたミャーを注意しようとするのだが、ミャーは聞く耳を持たない。
相変わらずの自由人だ。
「ふふ……ほんと、ナギサはミャーに気に入られてるね~。授業でも、パートナーを組んでるんでしょ?」
アリスは、空いているほうのナギサの隣へと腰を下ろすと、風で靡く髪を手で押さえて笑いかけてくる。
ミャーもしくは、他の生徒から聞いて、ナギサとミャーが実技のパートナーだということも知っているようだ。
「ミャーさんが誘ってくださいましたので。そうでなければ、私はお相手がいませんでした」
幼い頃から共にしてきたメンバーで構築されたクラスに、ナギサが一人で入れば当然ナギサは余りものになってしまう。
だけど実際は、ミャーが誘ってくれたことで浮かずに済んだのだ。
そうでなければ、最後に残った生徒が嫌々ナギサと組むことになっていたかもしれない。
まぁ、ミャーと組んだら組んだで、彼女は授業でやる気がなく、さぼりに付き合わされているだけなのだが。
しかし、ミャーには誰も強く言えないのか、教員から叱られたことは今のところない。
あのミリアでさえも、ミャーとナギサは放っておく方針のようだ。
それは、実力を隠したいナギサからすれば、好都合であった。
「もしそうなったら、フェンネルが誘ってくれたとは思うけどね。ほら、あの子すっごく優しいし」
「あっ……フェンネルさんは、とても人気がありまして……」
実技のパートナーを決めるという話が出た時、意外にも一番人気だったのはミャーではなくフェンネルだったのだ。
おそらく、本当は皆ミャーと組みたかったのだろうけど、ミャーの性格的に誘うことができなかったのだろう。
そのため、二番人気のフェンネルに皆集まったというわけだ。
「あはは、確かにそうかもね。でも、フェンネルはアメリアと組んだんでしょ?」
「よく知っておられますね……」
「そりゃあ、あの二人とは何度か同じクラスになったことがあるし、あの二人ああ見えて仲がいいからね」
どうやらアリスは、周りのことをよく見ているようだ。
幼かった頃は甘えん坊で自由奔放だった女の子がしっかりと成長していて、ナギサは胸が熱くなった。
「そういえば……その片割れ、何してるの……?」
ミャーはナギサの顔を見上げた後、ある方向へと視線を向ける。
そちらには、建物の陰からナギサを見つめている人影があった。
そう――アメリアだ。
彼女はナギサと目が合うと、シャッと建物に隠れてしまう。
「あれ……? 何か用事でしょうか?」
当然アメリアの視線にはずっと気が付いていたナギサだが、あえて気が付いていなかった
それにより、ミャーとアリスから《しらじらしい……》とでも言わんばかりのジト目を向けられ、ナギサは対応に困った。
「あの決闘から……授業中も、よくチラチラと……君のことを見てるね……。何かした……?」
ミャーはかわいらしく小首を傾げながら、ナギサの顔色を窺ってくる。
それによりナギサは――
「いえ、特には……。医療室に運んでる際に目を覚まされて、怒りながら逃げてしまわれたので……」
――と、正直に答えた。
この子には嘘が見破られてしまう、という考えからのことだった。
しかしそれが、逆に二人の興味を惹いてしまう。
「ふ~ん? 何を言って怒らせたの?」
先に口を開いたのは、ニヤニヤとした表情のアリスだった。
それに続き、ミャーもいじわるな笑みを浮かべながら口を開く。
「私たちが見てないからって……寝ているアメリアに……いたずらした……?」
「しませんよ……! どうして私がそんなことするんですか……!」
慌ててナギサが否定すると、アリスとミャーは視線を合わせてアイコンタクトを取る。
そして、再度ナギサを見ると――。
「アメリア、小柄だし顔もかわいいもんね」
「モフモフ……好きでしょ……?」
と、再度からかってきた。
「違いますって……! それにモフモフって、ミャーさんもモフモフじゃないですか……!」
と、ナギサが否定するも――。
「つまり、ミャーもナギサのターゲット?」
「私、狙われてる……?」
と、更にからかわれてしまい、この二人が揃うと本当に厄介なことを、ナギサはまた思い知らされたのだった。
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