第26話「真っ赤な先生」
ミリアの様子を見て、教室内はザワザワとざわつく。
誰もが同じようなことを思っただろう。
そんな中、ミャーは一瞬だけ気配を消し、チラッとナギサの顔色を窺う。
気配を消されたことでナギサはミャーの視線に気が付いておらず、ミリアの様子にキョトンッと首を傾げていた。
(あぁ、そういうタイプ……)
ミャーは何やら納得したように、視線をミリアへと戻す。
「先生、『仮面の英雄』のことが……好きなんだ……?」
「「――っ!?」」
ミャーがニヤッと笑みを浮かべながらちょっかいをかけると、驚いたようにミリアとナギサの視線がミャーへと注がれる。
そんな二人の視線を、ミャーは満足そうに受け止めた。
他の生徒たちは、ミャーの悪い癖が出たと思う。
他人にあまり興味を示さない猫獣人の彼女だが、自分が好むおもちゃを見つけると、嬉々として弄り始めるところがあるのだ。
「ち、違います、誰があんな人……!」
しかし、ミリアはすぐに否定をする。
そんな彼女を見つめていたミャーは、自分の顔を指さしながら口を開いた。
「でも、顔真っ赤……」
「――っ!?」
顔色を指摘され、ミリアは再度息を呑む。
彼女はすぐに顔を隠すが、その行為がミャーを余計に楽しませることに気付き、急いで口を開いた。
「こ、これは、からかわれたからです! 私があんな、女心を弄ぶような人、好きなわけがありません……!」
「えぇ!?」
ミリアが必死な様子で否定すると、ナギサは思わず声を上げてしまった。
それにより、クラスメイトたちの視線がナギサへと向く。
「どうかした……?」
ミャーはミリアから興味を失せたように、ナギサへと視線を向け、かわいらしく小首を傾げる。
だけどその瞳は、何かを確かめるかのようにジッとナギサの顔を捉えていた。
「あっ、いえ……まさか、『仮面の英雄』が女心を弄ぶ、酷い人だったなんて……。私は聞いたことがなかったので、驚いてしまいました……。ほ、ほら、私の出身国は『仮面の英雄』が主に活動していた国なので、余計に憧れみたいなものがありましたから……」
ナギサは疑われないよう、急いで言い訳をした。
他のお嬢様方と反応が違う理由として、『同じ国で憧れていたから』というのをアピールする。
それにより、ミャーは楽しそうな笑みを零す。
「ふふ……ナギサは、純粋……。あれは……誰がどう見ても……照れ隠し……」
ミャーがそう言うと、クラスメイト全員がウンウンと首を縦に振った。
こういうことには疎そうなアメリアでさえ、ミリアの態度は照れ隠しだとわかっているようだ。
「照れ隠しではありません……! 事実です……!」
ミャーの発言をしっかりと聞き取り、ミリアは感情的になったまま声を張る。
彼女も『英雄』と呼ばれていることや、学園生時代には『鬼才女』と呼ばれていたこと。
そしていつも冷静沈着な印象が強かったことで、憧れる生徒は多く、ミリアのこんな姿を見る日が来るとは誰も思っていなかった。
それだけに、生徒たちの印象に強く残ってしまう。
「あんなに必死になっちゃって……」
「ちょっとかわいいかも……」
「先生、素直じゃないなぁ……」
ところかしこで、クラスメイトたちのそんなヒソヒソ話が聞こえてくる。
みんな、ミリアに親しみやすさを感じたようだ。
しかし、肝心なミリアといえば――当然、この状況を良しと思っていない。
「良いですか、皆さん! 私の話をよく聞くように……!」
ミリアは大きな声でクラス中に呼び掛けると、『仮面の英雄』らしき、剣を持つ仮面の冒険者を黒板へと描く。
「彼は確かにとても強く、誰にでも優しい人格者だったと思います! ですが、共に戦い、少しとはいえ一緒の時を過ごした仲間に対し、ロクに別れも言わず突然旅立ってしまうような、酷い男なのです……! 騙されてはいけませんよ……!」
ミリアはそう高らかに呼びかけるが、生徒たちは誰もが思った。
というよりも、口に出した。
「「「「「あぁ、捨てられたのですか」」」」」
――と。
「捨てられてませんけど!? 勝手に人を可哀想な扱いしないでくださいます!?」
そう反論するミリアだが、生徒たちは皆、可哀想な者を見るような目でミリアを見つめていた。
同情をされているらしい。
きっと、この素直になれない性格のせいで、『仮面の英雄』に愛想を尽かされたんだ、と。
ところで、そんな『仮面の英雄』であるナギサはというと――
(や、やばい、まさか手紙で別れを告げたことを、あんな根に持っていたなんて……! あの時は、組織の刺客に襲われて彼女を巻き込みたくなかったから、直接別れを言うわけにはいかなかったんだけど……!)
――姿勢を正しながら、ダラダラと汗を掻いていた。
冒険者になってから組織に復讐をするために生きてきたナギサは、今まで何度も組織のメンバーと闘い、企みの邪魔をしてきた。
それによって逆に組織から狙われる立場でもあり、まだ何も恨まれていないミリアを巻き込みたくなかったのだ。
だがろくに説明をしなかったことで、ミリアに嫌われてしまった、とナギサは考えた。
これで、知人だから万が一の時は助けてもらえるかもしれない――という望みは、完全になくなったと考えられる。
「ふふ……これはこれで……面白い……♪」
顔を真っ赤にしたまま怒るミリアと、汗を流すナギサを交互に見ながら、ミャーはご機嫌そうに笑みを浮かべているのだった。
このお姫様、こう見えていたずら好きなのだ。
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【あとがき】
読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)
話が面白い、ミリア、ミャー様がかわいいと思って頂けましたら、
作品フォローや評価(下にある☆☆☆)、いいねをして頂けると嬉しいです(≧◇≦)
これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪
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