第25話「意味深な様子」
「「「「「…………」」」」」
クラスメイトたちは、シーンと静まり返ってしまう。
ミリアが、嘘を吐いているように見えなかったからだろう。
彼女の自虐的にも見える笑みに、ナギサは胸がギュッと締め付けられる感覚に襲われた。
そんな中――とある一人の少女が、ゆっくりと手を挙げる。
「先生……」
それは、普段教室で自分から先生に話しかけることがないような、ミャーだった。
彼女が手を挙げたことが意外だったらしく、クラスメイトたちが驚いたようにミャーを見る。
「ハイエストさん、どうなさいましたか?」
たとえ相手がお姫様であろうと、ミリアは平等に扱うつもりなようで、ミャーにへりくだったようすはない。
それに関してミャーは何も思っていないようで、気怠そうな雰囲気のまま再度ゆっくりと口を開いた。
「『仮面の英雄』は……どれだけ強かったの……?」
どうやらミャーは、『仮面の英雄』の実力が知りたいようだ。
その実力を目の当たりにしているミリアに尋ねるのは、理に
「口で説明したとしても、あなたたちは信じないと思いますね」
「それでも、聞きたい……」
「…………」
ミャーが聞きたがることで、ミリアは話すかどうか考える素振りを見せる。
あまり乗り気ではないようだ。
冒険者の危険性を伝えるのであれば、『仮面の英雄』について話すのが一番だと思われるが。
「何か、言いたくないことでも……?」
当然、目聡いミャーがそのことに気が付かないはずがなく、すぐに突いた。
それにより、ミリアは仕方がなさそうに口を開く。
「貴族、冒険者に限らず、自身の戦闘に関する情報は隠すものです。それは、戦い方を知られてしまえば、対策をされてしまうからであり――この世では、手柄を横取りするために冒険者を襲う冒険者がいたり、厄介なそし――いろいろと、
ミリアは明らかに何かを言いかけたが、途中で言葉を変えた。
そのことに気が付いた者は、ナギサやミャー以外にもいるはずだが、誰も指摘をしようとはしない。
ミリアは、エンシェントグリフォンを討伐した後も、少しの間ナギサと一緒にいたのだが、その時ナギサは組織について何も彼女に教えてはいなかった。
そしてミリアも、厄介な闇の組織がこの世に存在するということは知っている様子がなかったので――ナギサと別れた後に、何かを知ったのかもしれない。
「じゃあ、能力とかについては……話さずに……強さを表すと……?」
ミリアの意図を汲み取り、ミャーは単純な強さで話せと言う。
再び口元に手を当ててミリアは考え、口を開いた。
「誇張なしに申し上げて、私と『始まりの英雄』の子孫であるあなたたち四人が手を組んで、互角に戦えるか――といったところでしょうか」
落ち着いた口調でミリアが答えると、ザワザワと教室内がざわめく。
それほど、意外なことだったようだ。
「先生、ミャー様方を愚弄するにもほどがあります! 『始まりの英雄』の血を
「もちろん、そのようなことは存じ上げております。しかし、戦闘は能力だけでは決まりません。知識、経験も大きく影響するのです。そのため、知識と経験で大きく劣るお姫様方では、『仮面の英雄』には勝てない、という話です。貴族が冒険者に勝てない根本も、同じところですね」
アメリアが反論を口にするも、ミリアはすぐに否定をした。
どうやらミリアは、ナギサのことをかなり買っているらしい。
もちろん、ナギサも彼女の考えは理解できる。
冒険者は日々危険の中で生きており、多くの修羅場を乗り超えてきた者たちだ。
冒険者を顎で使い、ぬくぬくとした室内で安全に生きてきた貴族では、到底冒険者にはかなわないだろう。
しかし――
(僕、そんなに強くないけど……!?)
――『始まりの英雄』四人プラス、ミリアまでをも相手にして、ナギサは互角に戦える気がしなかった。
リューヒとミリアが手を組んだだけでも、ナギサからすれば戦いたくないレベルなのだ。
「そう、実力はわかった……」
自身が下に見られたにもかかわらず、ミャーは冷静に頷く。
それどころか、今もなおミリアに噛みつこうとせんばかりのアメリアや、他の不満そうにするお嬢様方を手で静止している。
こういうところを見ると、やはり彼女も人を従える立場の人間だということを、思い知らされる。
「性格は、どう……? どういう感じの……冒険者だった……?」
実力を知れたことで話を終わらせるかと思われたミャーだが、更に『仮面の英雄』の人格について尋ねた。
先程の質問のような、自分たちと『仮面の英雄』の実力差を知るためのものではなく、『仮面の英雄』自体に興味を持っているような発言だ。
それにより、当然ナギサは気が気じゃなかった。
(僕、もうこの数日間で神経すり減りすぎだよ……)
と思ってしまうほどに、精神的に疲弊しているのだ。
そんなナギサをよそに、ミリアは――
「まぁ……他人想いで、優しくて……好青年、だったのではないかと……」
――と、ほんのり頬を赤く染めて生徒たちから視線を逸らし、髪を指で弄るという何やら意味深な様子を見せるのだった。
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