第17話「初めての友達」
ナギサが顔を上げると、そこには綺麗な黒髪をまっすぐと下に伸ばす、清楚可憐な美少女が立っていた。
おしとやかでおとなしそうな彼女は、ナギサと目が合うとニコッとかわいらしく微笑みかけてくる。
おかげで、九歳ほど年下の子が相手にもかかわらず、ナギサは頬をほんのり赤く染めてしまった。
「戻ってきたんだ、フェンネル……」
「はい、先程学園に帰ってまいりまして」
ミャーが名前を呼ぶと、フェンネルはニコニコの笑顔で頷いた。
わざわざ報告をしに来たところを見るに、どうやら彼女はミャーに従う立場にあるらしい。
「そちらの御方は、新入生の方でしょうか?」
フェンネルはナギサに興味があるらしく、笑顔のままミャーへと尋ねる。
「んっ……私たちと、同じクラスになる子……」
「ミャー様がこうしてお身体に触れることをお許しになられるなんて、凄いですね……」
ナギサの膝に頭を載せ、気持ちよさそうに撫でられるミャーを見つめながら、フェンネルは関心したように頷く。
当然その反応にナギサは違和感を抱き、すぐに口を開いた。
「ミャーさんって、普段こういうことをなされているのではないのですか……?」
「ミャー様は触れられることを、お嫌いになられておりますからね。撫でることをミャー様がお許しになられるのは、アリス様やリューヒ様、それにシャーリー様くらいかと」
「…………」
要は、姫君たち以外許されていないとのことなので、ナギサは思わずミャーを見つめてしまう。
ミャーはナギサの視線など意に返した様子もなく、小さくあくびをした。
「細かいこと、気にしなくていい……」
(全然細かくないんですが!?)
ナギサはついツッコミを入れそうになる。
ミャーはめんどくさくてあしらっているだけだろうけど、膝を貸したり頭を撫でることが当たり前のことではないのなら、ナギサにとって当然困ることになってしまう。
先程のフェンネルのように他の生徒にも関心を抱かれる可能性が高く、ミャーがくっついている女は誰だ、ということにもなりかねいのだ。
やはり、すぐにでもナギサはこの行為をやめるべきだと思った。
しかし――
「すぅ……すぅ……」
――今の今まで起きていたミャーから、突然かわいらしい寝息が聞こえ始めた。
見れば、目を閉じてしまっている。
自由人すぎるお姫様に、ナギサは再度頭が痛くなった。
「寝てしまわれましたね……」
「困りました……このようなところ、他の方々に見られて誤解を生みたくはないのですが……」
というか、注目をされたくない、というのがナギサの本音だ。
だけど、寝ているミャーの頭を膝から下ろすわけにもいかない。
そうナギサが困っていると――
「申し遅れました。私は、フェンネル・カインドと申します」
――フェンネルが、自身の左手を胸に添えながら自己紹介をしてきた。
おそらく、ミャーのこういった自由な行動に慣れきっているのだろう。
(カインド……ハイエストの両翼、と
ハイエスト国では、王族であるハイエスト家の次に権力を持つ貴族だ。
もう片割れはピュア家といい、どちらもご令嬢がこの学園に通っているという情報は、ナギサも入寮前に入手していた。
「初めまして、ナギサ・サルバドールです。以後、お見知りおき頂けますと幸いです」
ナギサは立ち上がれない状況なので、座ったまま右手を胸に添え、優しい笑顔で自己紹介を返した。
(とりあえず今日帰ってきたってことは、この子は内通者じゃないな……)
カインド家のご令嬢ということは、ミャーと同じく幼い頃から学園に通っているはずであり、何より国王の右腕もしくは左腕に
そういう思い込みから、ナギサは彼女を疑うことをやめた。
それには、曲者のミャーが、フェンネルに心を許しているというように見えた、ということも影響している。
「ナギサさんは、どこのご出身でしょうか?」
「プリジャールです」
「まぁ、アリス様のところですか。失礼ながら、外部入学の方ですよね? どうして、この学園に入学しようと思われたのでしょうか?」
フェンネルはニコニコとした楽しそうな笑顔で、敵意的感情をいっさい抱かずに聞いてくる。
お喋り好きのお嬢様なのか、それともシャーリーと同じように外部入学生が気になるのか。
ミャーが寝てしまったことで身動きが取れないナギサは、彼女の話に付き合うことにした。
――そのまま二人は、お互いの理解を深めるようにどういうふうに育ったか、ということを雑談していく。
ナギサからすれば、この学園で初めて出会うお姫様以外の生徒なので、なんだか気が楽になった。
少なくとも、気の抜くことができないお姫様たちを相手にするよりも、フェンネルを相手にするほうが楽なのは間違いないだろう。
リューヒはナギサが歓迎されないというようなことを言っていたが、ミャーが懐いているからかフェンネルはナギサに嫌な感情を抱いていないようなので、ナギサは初めてこの学園で心を許せる相手に出会った、と思うのだった。
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