第16話「猫姫様は自由人」

「――あの、これはいつまでしていればよろしいのでしょうか……?」


 ミャーに捕まり頭を撫でている中、いつまでもこうしているわけにはいかないナギサは、恐る恐るという感じでミャーに尋ねた。


「今日一日……?」


 そして、ボケているのか本気なのかわからない返しをされてしまい、ナギサは反応に困ってしまう。


 ミャーはとても愛らしい顔つきをしているだけでなく、気難しそうであまり人を寄せ付けない雰囲気があるのに、ナギサにこうして体を許してくれている。

 そのため、ナギサにとってかわいい妹のようでもあるので、この行為自体はナギサも好きだった。


 しかし、こうも密着していれば男としてバレるリスクが跳ね上がるので、困るのだ。

 ましてや相手は頭がキレそうな少女のため、ナギサは内心バレないかヒヤヒヤものだった。


「さすがに、ご勘弁頂けますと……」

「ふふ、冗談……」


 ナギサが苦笑気味に返すと、ミャーは冗談だと言ってきた。

 どうやらナギサをからかっていただけらしい。


 そのことに関して、ナギサがホッと安堵すると――。


「日が沈むまでで、いい……」


 中々困る言葉をぶつけられてしまった。


「…………」


 またもやボケかわかりづらい言葉に、ナギサは言葉を失ってしまう。

 ナギサが何も返さないからか、ミャーが続けて口を開いた。


「日が沈むと……こうしてる、意味がないからね……」


 今は太陽の光に当たってリラックスしている状態なので、その光がなくなると意味がないとミャーは言っているのだろう。

 そんなこと一切気にしていなかったナギサからすると、今からでも解放してくれ、と思わざるを得なかった。


「ミャーさんは、日光がお好きなんですね?」


 内心では解放を願うものの、相手の立場が上であるだけでなく、キレ者なので下手なことを言えば疑われてしまう可能性があり、ナギサは逃げるに逃げられない。

 そのため、なるべく会話をすることでミャーの気を逸らすことにした。


 都合よくいけば、昨日のようにうるさいからどっか行け、みたいなことを言われるんじゃないかと期待しながら。


「んっ……ぽかぽかするから……」


 しかし今日のミャーは、ナギサの雑談にも付き合ってくれるようだ。

 機嫌がいいのだろう。


「普段もこちらにいらっしゃるのですか?」


 毎日こうしてミャーに捕まるとかなわないので、ナギサはシレッと彼女の日中の行動パターンを聞き出そうとする。


「うぅん……いつもは、他に生徒がいるから……うるさい……。今は、静か……」


 ナギサの質問に対して、ミャーは首を横に振った。

 おかげで髪の毛や耳の毛がナギサの太ももに擦れ、ナギサはくすぐったく感じる。


 ミャーが言っていることに関しては、ほとんどの生徒が帰省をしているとのことなので、今は静かなのだろう。

 逆に言うと、生徒たちが帰ってくれば間違いなくうるさいようだ。


 それは、ミャーがハイエストのお姫様だというのが、大きく影響していると思われる。


「皆さんがおられなかったことにより、幸い騒ぎにもならなかったようですね……」


 普通、爆破事件が起きるようなことがあれば、今頃大騒ぎだ。

 この学園には、世界中のお偉いさんの娘や孫が通っているため、何かあれば大問題になる。


 それが未だにどの国の使者も見えないということは、昨晩の事件が知られていないということだ。


 学園側は、いたずらに生徒の不安を煽りたくないということで男の件を隠し、爆発は教員が魔法実験をしていて暴発した、という扱いにしたらしい。

 だがその実情は、学園のセキュリティ面に問題があるとなれば信頼を失い、多くの国から責められてしまうから隠しているだけだろう。


 リューヒをはじめとした発言力を持つ姫君たちがその隠匿いんとくに何も言わないのは、何かしらの思惑があるんじゃないか、とナギサは考えていた。


「不幸中の幸い……でもないんだろうね……。男は……こうなることを見越して……昨晩行動したはずだから……」


 ミャーはめんどくさそうに、ナギサの太ももにグリグリと顔を押し付けてくる。

 見るからに面倒事に巻き込まれるのは嫌いそうなので、男の件が嫌なのだろう。

 グリグリとされているナギサは、くすぐったいので困っていた。


「そういえば、護衛はつけないのでしょうか……?」


 ナギサはあえて、昨晩話をした護衛のことを尋ねてみる。

 これは、現在何も気が付いていませんよ、というアピールだった。


「……教師が隠れて……常に、私やナギサを……見てるね……」


 ミャーは数秒を置いた後、暗に護衛が付いていることを打ち明けた。

 傍で付きっきりになれば他の生徒が勘づいてしまうため、離れたところから護ろうとしているのだろう。

 あわよくば、姿を現せた男を捕らえたいと考えているのかもしれない。


 だけど、ナギサは――

(この距離で気付かれるレベルだと、たいして期待はできないんだよね……)

 ――と、頭が痛くなる思いだった。


「それは安心しました……」


 とはいえ、本音を打ち明けるわけにはいかないので、ナギサは安堵する様子を見せる。


 しかし――ミャーからは、白い目を向けられてしまう。

 それは、《しらじらしい……》とでも言わんばかりの目だった。


「――ミャー様、やはりこちらにいらっしゃいましたか」


 ナギサがミャーの視線に困っていると、先程からずっとこちらを観察していた少女が近付いてきた。

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