第15話「猫姫のいたずら」

「――結局、男は見つからず、か……」


 翌日のお昼時、リューヒ主体で行われた事情聴取を受け終わったナギサは、一人考えごとをしていた。

 学園をくまなく探しても男は見つからなかったとのことで、外に逃げてしまったのだろう。

 となれば、内通者を探すべきなのだが――生憎、学園に来たばかりのナギサには、心当たりがなかった。

 その辺の調査に関しては、リューヒたちに任せるしかないだろう。


 そんなことを考えながら、自室を目指して歩いていると――

「……♪」

 ――昨日さくじつのように庭で気持ちよさそうに日向ぼっこをする、ミャーを発見した。


 昨晩あんなことがあったにもかかわらず、ミャーはいつも通りのようだ。

 ナギサは一瞬声を掛けるか悩むが、遠回しに追い払われた記憶が頭をよぎり、見なかったことにする。

 しかし――ミャーがナギサのほうを振り返り、手招きをした。


 今回は気配を消していなかったので、ミャーもナギサに気が付いたらしい。


 呼ばれてしまっては無視することもできないため、ナギサはゆっくりと彼女に近付く。


「ごきげんよう、ミャーさん」

「んっ、よく来たね……」


 ミャーにとっては《んっ》が挨拶らしく、隣に座るように促される。

 相変わらず何を考えているかわからない彼女に戸惑いながらも、ナギサは隣へと女の子座りで腰を下ろした。


 すると――

「ちょうどいい、枕……」

 ――ナギサの膝へと、ミャーが顔を載せてきた。


「……っ!? ……っ!? ……っ!?」


 ミャーの予想外すぎる行動に、ナギサは言葉にならない声を上げてしまう。

 ナギサは冒険者をしていて女性と接したことは当然あるが、恋人がいたことは一度もない。

 そのため女性耐性はあまり付いておらず、いくら年下の女の子であろうと、こんなことをされて平然としてはいられなかった。


「ごろごろ……♪」


 しかしミャーは、凄く動揺するナギサを気にした様子がなく、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。

 ナギサの全身の筋肉はとても柔らかいため、乗せ心地がいいのかもしれない。


「ミャ、ミャーさん……?」

「細かいこと、気にしなくていい……」


 状況を飲み込めずナギサは聞こうとするのだが、ミャーは答えるつもりがないらしい。

 それよりも、このままおとなしく膝を貸せ、と言っているように思えた。


「他の方に見られると、誤解をされませんか……?」

「誤解……? 女の子が、こうしてても……誰も、不思議には思わないはずなのに……?」


 ミャーは不思議そうにナギサの顔を見上げてくる。

 ナギサはお嬢様学園の生徒たちが普段どう接しているのか知らないのだが、もしかしたら友達同士でこうすることは当たり前なのかもしれない。


 そう思ったナギサは、怪しまれないよう笑みを浮かべた。


「そうかもしれませんね……」

「んっ……ちなみにこういう時は、頭を撫でるもの……」

「えっ!?」


 話を合わせた直後、ミャーは口元を緩めながら試すような目を向けてきた。

 いじわるにも見える表情に、ナギサは困ってしまう。


「どうしたの……? 女の子同士なのに、できない……?」


 躊躇するナギサを、ミャーは更に追い込んでくる。


 当然、こうなってしまえばナギサも――

「こ、こうでよろしいでしょうか……?」

 ――疑われないために、流れに身を任せるしかなかった。


「ふふ……♪」


 ナギサに頭を撫でられたミャーは、楽しそうに笑みを零すのだった。

 もしかしなくてもナギサは、とても厄介なお姫様に目を付けられたのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る