第14話「心強い味方」

「アリスちゃんは、来る者拒まずのところがありますし……万が一目を覚ましても、誤魔化せると思ったのでしょうか……?」

「さすがの、アリスも……男が紛れてれば、おかしく思う……。単純に、他の三人が……攫いづらかった、だけかも……」


 シャーリーとミャーは、立場が下であるナギサの言葉を真剣に聞き、考慮している。

 それだけで、彼女たちは上に立つ者として素晴らしいとナギサは思った。

 だからこそ、もう一つ可能性を進言する。


「憶測を更に重ねてしまって恐縮ですが、あの男がアリス様を攫うことが成功していた場合、人質としても利用したかもしれません。会長を、捕らえるために」


 ナギサはリューヒの実力を全て把握しているわけではないが、かなりの実力を誇ることは理解していた。

 そして男の実力から想定するに、ガチンコ勝負になれば、勝つのはリューヒではないか、と考えている。

 そう仮定した場合、会長の実力を男が知っているのであれば、戦わずに捕らえたいと考えるはずだ、とナギサは思っていた。


「リューヒちゃんでしたら、罠だとわかっていても突っ込みますしね……」

「うん、生徒を……見殺しには、できないから……」


 ナギサが思った通り、リューヒは生徒想いの性格をしているらしい。

 しかし――本来長所である部分が、こういう時弱点になってしまうのだから、皮肉な話だ。


「あくまで仮定ですので、そのことはお忘れなくお願いできればと。ただ、アリス様はもちろんのこと、シャーリーさんやミャーさん、それに会長にも、安全が確認できるまでは、護衛をつけて頂いたほうがよろしいかと存じ上げます」


 ナギサにできる進言は、ここまでだろう。

 後は彼女たちがどうするか次第だ。


 その上で、ナギサは影から彼女たちを守るつもりでいた。


 しかし――。


「護衛、いいかもね……」


 話を聞いていたミャーの目が、ギラッと光る。

 その瞳が捉えているのは、ナギサだった。


(……まさか……?)


 ナギサは思わず身構えてしまう。


「ミャーちゃん、何か良いお考えが?」

「うぅん、なんでもない……。そういえば、ナギサは……私と同じクラス、だったよね……?」


 明らかに誤魔化すように首を横に振ったミャー。

 続けていった言葉が、ナギサをどうしようと考えているか、言っているようなものだった。


「そのはずですね」

「そう、わかった……。ナギサ……君はもう、行っていい……」


 もう話は終わりだ、ということでナギサは自身の部屋に戻るよう言われてしまった。

 男が戻ってくることも警戒しないといけない状況だが、ミャーはそう考えていないようだ。


「今は、人が多いに越したことがないのでは……? それに、逆恨みされている可能性もありますので、ナギサちゃんを一人にするのも危ないかと……」

「大丈夫……あの男は、戻ってこない……。もし、戻ってくるような、男なら……脅威では、ない……。それよりも、ナギサは……疲れてるだろうから……もう、休めばいい……」


 どうやらミャーは、ナギサと同じ考えのようだ。

 ナギサはこのまま彼女に逆らって残るか、それとも言う通りにするかで悩む。


 そして――

「わかりました。私がいては万が一の時、足手まといになってしまうかもしれませんし……本日のところは、お休みさせて頂きます」

 ――弱者を演じ、素直に言うことを聞く子だという印象を、ミャーたちに植え付けることにした。


「うん……そうしたほうが、いい……」


 ナギサの判断に、ミャーは満足そうに頷く。

 狙い通り、大方いい印象を与えられたようなので、ナギサは一つお願いすることにした。


「実は一つ、お願いさせて頂きたいことがありまして……アリス様が攫れそうになったことは、アリス様には内緒にして頂けませんか?」

「えっ……?」


 ナギサのお願いを聞いて、戸惑ったのはシャーリーだった。

 彼女はすぐに口を開く。


「なぜでしょうか……? 攫われそうになっているアリスちゃんをお助けになられたのですから、プリジャールの国王様から恩賞を頂けるのですよ……?」


 アリスに隠すということは、当然関係者にも隠すということになる。

 ナギサがしたお願いは、自らの手柄をなかったことにするようなものだった。


 貴族が大切にする、身分や家柄を上げることや、領地を拡大するチャンスを放棄してまでするお願いに、シャーりーは戸惑っているのだ。


「男が捕まれば解決なのかどうかもわかりませんのに、アリス様に不安な思いを抱いて頂きたくないのです。寝ていたとはいえ、自分が攫われそうになったと知れば、傷ついてしまわれるでしょうから。恩賞は残念ではありますが、仕方がありません……アリス様のお心のほうが、大切ですので」


 ナギサはそう言って、取り繕う。

 本心では、アリスに近付くチャンスでもあるので、もったいないと思っていた。


 しかし――万が一アリスがナギサの容姿に覚えがあった場合、自分を救い出せるほどの実力を持つ、ということまで知られてしまうので、正体を疑われる可能性が跳ね上がるのだ。


 それだけではなく、アリスを助けたことが学園中に知られてしまい、一気に注目を浴びてしまう。

 なるべく目立たずに過ごしたいナギサとしては、注目されるなど何よりも避けたい状況だった。


 そのため、アリスに伝えられないとなれば、学園中に広まることもない、とナギサは踏んでお願いをしているのだ。


「それは、そうかもしれませんが……でも、どのみち護衛をつける必要がありますし……」


 シャーリーはまだ納得がいっていないらしく、すぐに頷こうとはしない。

 まだいいくるめる必要がありそう――ということでナギサが口を開こうとしたのだが、先に口を開いたのはミャーだった。


「私たちが、狙われてる……ということで、つけたと言えば……アリスは、信じる……。ここは、ナギサのお願いを……尊重、しよう……」

「ミャーちゃん……」


 意外にも、ミャーがナギサの肩を持ってくれた。

 それにより、シャーリーは仕方がなさそうに頷く。


「わかりました……功績者はナギサちゃんですから、そうしましょう。リューヒちゃんの許可は必要になりますが、理由もアリスちゃんのことを想ってのことですし、反対はなされないでしょう」

「ありがとうございます……!」


 二人の同意を得られたことで、ナギサは深々と頭を下げる。

 その表情は、今にもガッツポーズしたいほどに嬉しそうだった。


(よし、これで目立たずに学園生活を送れる……!)


 そう確信したナギサは、ニコニコとした素敵な笑顔で顔を上げた。


 これで話はまとまったので、ナギサはアリスの部屋へと案内をしてもらい、彼女をベッドへと寝かせる。


「それでは、私はお部屋に戻ります。本日はありがとうございました。それでは、おやすみなさいませ」


 ナギサがそう言うと、二人ともおやすみの言葉をかけてくれた。

 それにより、ナギサは意気揚々と部屋を出ていくのだった。



          ◆


「自分の手柄よりも、アリスちゃんのことを想う心……彼女は、とても優しくて素晴らしい子ですね……」


 ナギサが部屋を出た後、シャーリーはそう呟きながらミャーへと視線を移した。


「手柄を立て……恩賞をもらうことを、重視する……貴族にしては、珍しいね……。まぁ、貴族になったばかり……みたいだけど……」

「貴族でなくとも、普通は手柄を上げれば恩賞を欲します。あの子はいったい、何者なのでしょうか……?」


 シャーリーが知っているのは、貴族になってからのナギサについてだけだ。

 それよりも前のことは知らず、どうしても気になってしまうらしい。


只者ただもの、ではない……。頭がキレるみたいだし……異常なほどに、強い……」

「もしかして、彼女がアリスちゃんを助けるところを――?」


 シャーリーが尋ねると、ミャーは人差し指を鼻の前で立てる。

 まるで、それ以上言うな、と言わんばかりに。


「あの子……アリスの国の出身、だったね……?」

「えぇ、そうですが……」

「なるほど、ね……」


 ミャーは口元を緩める。

 その表情の変化を、シャーリーは見逃さなかった。


「何か知っていらっしゃるのですか?」

「うぅん、知らない……」


 シャーリーが尋ねると、ミャーは首を横に振った。

 それが嘘だということにシャーリーは気が付くが、追求しようとはしない。

 話さない理由があるのだろう、と考えたのだ。


「ナギサに関しては……あまり、探らないほうがいい……。それが、お互いのため……」

「お互いの……?」

「いなくなると……多分、困ることに……なるからね……。リューヒも……そう、考えてるはず……」

「…………」


 シャーリーはリューヒの態度を思い出す。


 リューヒは物事をはっきりとさせたがるタイプだ。

 それなのに、風魔法を使ったのがナギサだと内心で考えていたにもかかわらず、そのことを追求しようとはしなかった。

 それどころか、ナギサに信頼を寄せているようにも見えた。


 今日来たばかりの外部入学生が相手なのに、リューヒの態度はシャーリーにとって腑に落ちないものだったのだ。


「これから学園は、どうなるのでしょうか……?」


 自分には見えていないものがリューヒやミャーには見えている気がし、シャーリーは尋ねてしまう。


「さぁ……? それは、私にも……わからない……」


 しかし、ミャーは首を横に振ってしまった。

 今度は嘘ではなく、ミャー自身にもわからないのだと、シャーリーは察する。


 そんな彼女に対し、ミャーは続けて口を開いた。


「でも……大丈夫、だと思う……。心強い味方が……いるから……」


 ミャーはそう言うと、眠っているアリスの頭を優しく撫でるのだった。

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