第12話「罪悪感」
「何者も何も、私は貴族になったばかりのこの学園の生徒ですよ?」
ナギサは動揺を悟られないよう、笑顔で取り繕う。
まさか、シャーリーからこうも早く疑われるなど、思いもしなかった。
「お父様が、功績を上げて貴族になられたのですよね? その前は、いったい何をなされていたのですか?」
リューヒと同じく、シャーリーもナギサの父に関して知っているようだ。
外部入学ということで、彼女たちのような立場の人間には情報が共有されているのかもしれない。
「どうして、そのようなことをお聞きになられるのですか?」
シャーリーがどうして聞いてきているのか、何を疑っているのかを知るために、ナギサは探りを入れる。
「先程リューヒちゃんは口にしませんでしたが、身体から発生させるのではなく、遠隔的に発生させる魔法は、かなり高度なもの――高等魔法です。あの場にいた方々の中で、風系統であんなことができる方はいなかったはずなのに……実際に、誰かが魔法を使っておりました」
幼い頃からこの学園で育ってきたシャーリーからすれば、リューヒはもちろんのこと、一緒にいた大人たちの実力も十分理解しているのだろう。
それを踏まえた上で、あの場に使用できる者はいなかったはずであり、もし可能な者がいるとすれば、シャーリーがよく知らないナギサでしかない、と彼女は思っているようだ。
実際彼女の読みは当たっているので、ナギサは内心苦笑いしてしまう。
「先程もお伝えしました通り、私の適性は氷なので」
論より証拠、と言わんばかりにナギサはアリスを落とさないよう気を付けながら、手のひらの上で小さな氷塊を出現させる。
一属性しか扱えない、という考えが刷り込まれている以上、シャーリーは信じるしかないだろう。
「……そのようですね……ごめんなさい、疑うような真似をして……」
目の前で魔法を使って見せられたことで、シャーリーはあっさりと信じた。
王女という身でありながら、すぐに頭を下げてきたのは、やはり彼女の人柄が優れているということだ。
そんな彼女を騙してしまっていることに再度ナギサは胸が痛くなるが、立場的に仕方がなかった。
「お気になさらないでください。シャーリーさんのおっしゃられていることもわかりますので」
ナギサは優しい笑みを浮かべて話を終わらせようとする。
しかし、シャーリーはまだ終わらせたくないようだ。
「ありがとうございます……。ですが、そうなればいったいどなたがなされたのでしょうね……?」
彼女も立場的に、あの魔法が誰のものだったか追及する必要があるのかもしれない。
さすがに、このまま素知らぬフリはできなかった。
後々、再び疑いの目を向けられることになるのだから。
「先程あの場にできる方はいなかったとおっしゃられておりましたが、正確には違いますよね?」
「えっ……?」
ナギサが先程のシャーリーの発言を持ち出すと、何が言いたいのか、という感じでシャーリーは戸惑いつつナギサを見てくる。
「シャーリーさんでしたら、できたのではないですか? 風魔法を、自身から離れた位置に発生させることも」
襲い来る炎を空に逸らす風が吹きあがった時、リューヒは最初にシャーリーに確認をした。
それはつまり、シャーリーならできることだというのを意味する。
そう踏んでいたナギサは、シャーリーになすりつけることにした。
「確かに、私はできますが……」
シャーリーは戸惑ったまま、ナギサから目を逸らしてしまう。
次にナギサが言うことがわかっているようだ。
「それでは、シャーリーさんがされたのではないですか?」
「ありえません……私ではないことは、私自身が一番わかっておりますので……」
魔法を使ったかどうかなど、本人が一番わかっている。
そのようなこと、ナギサは百も承知だ。
その上で、シャーリーを言いくるめようとしていた。
「魔法は意識して使うのが一般的ですが、危機的状況に陥った時、無意識に使ってしまうことがあるのです。シャーリーさんは自身と会長をお守りになるために、無意識に魔法を使っていたのではないでしょうか?」
「そうなのですか……?」
ナギサが睨んだ通り、人生のほとんどを危険のない学園で過ごしてきたシャーリーは、この言葉の真偽はわからないらしい。
そしてこの言葉は、嘘ではなかった。
実際に、自身を守ろうと咄嗟に無意識で魔法を使うことはあるのだ。
――魔法を普段から使い慣れた者に限る、という話ではあるのだが。
それと、使った者は後から自覚するので、シャーリーのように覚えていなかった、というのはそうそうない。
「はい、ですから誰が魔法を使ったのか、わからなかったのではないかと」
「……そう、なのですね……」
シャーリーは勘が良さそうではあるのだが、純粋な子でもあるので鵜呑みにしてしまうようだ。
おかげで、助かったナギサだが――
(あぁあああああ! 僕は、純粋なうら若き乙女をどれだけ騙せば、気が済むんだぁああああああ!)
――今すぐにでも、頭を壁にぶつけたい気分になっていた。
自分が疑われないようにシャーリーになすりつけてしまったことが、凄く胸を痛めているようだ。
そうして、ナギサが自責の念に
考えごとをしていたとはいえ、ナギサですら近付くまで気配に気が付いておらず、彼は思わず身構えてしまう。
しかし、声をかけてきたのは――
「アリスは……大丈夫……?」
――昼間に出会った、猫獣人の少女だった。
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