希望
佐倉遼
希望
さて、これから語りますは、とある時代の神様たちのお話でございましてね。神様なんてぇのは、米の粒ほどいるもんですが、まぁその中でも特に不仲な二柱の神様がいたんです。
ひとりは「
で、ある日のこと。この二柱の神様、いつものように暇を持て余して、ぶらぶらと過ごしていたところ、どちらが「希望」を
神様ってのは、なんとも厄介なもんでして、何かを「司りたがる」性分があるんですなぁ。だけど、「酢飯」だの「靴ひも」だの、「Amazonプライムビデオ」なんかを司ったところで、どうも威厳が出ない。やっぱり「風」だとか「時」だとか、もしくは「Netflix」みたいな、ちょっとカッコいいもんを司りたがるもんでして。しかも、たいてい一つじゃあ飽き足らず、二つも三つも持ちたがる。そんな神様にとって、一番魅力的なのが「希望」ってぇわけでございます。
いつの時代も神様ってのは、自分が何を司り、相手が何を司っていないかを勝手に決めつけては、まぁ罵り合うんです。
「おい、明昼の神よ。希望というのは、どう考えても私が司っているもんだと思うが、どうだね?」なんて、暗夜の神が言い出せば、
「いやいや、何を言っているんだ。希望は光と共に輝くもんだ。だから、わたしこそが希望を司っているに決まっている!」と、明昼の神も負けじと反論するわけです。
すると暗夜の神がふんっと鼻を鳴らして、得意げにこう言います。
「なぁ、考えてもみろ。夜はすべてを包み込み、どんな不安や苦しみも隠してしまう。暗闇の中にこそ、人は希望を見出すもんじゃあねぇのか?ほら、星だって夜にしか輝かないだろう?」
ところが明昼の神、すかさず反論。
「ふん、闇で見えなくしたからって、希望が生まれたわけじゃない。世界はそれを誤魔化しと呼ぶんだぜ」
「サンボマスターみたいなことを言いやがる」
「だいたい星なんて、昼間も空にいるじゃないか。ただ、私の光が明るすぎて見えないだけのことさ」
暗夜の神は少し黙りこみますが、すぐに立ち直って、
「じゃあ、お前の自慢する明るい昼の良いところってのを聞かせてもらおうじゃないか」
ここで明昼の神、胸を張って自信満々に言い出します。
「昼間の明るさこそ、真の希望だ。陽の光がすべてを照らし、すべてがはっきりと見える。それに、人々は太陽の光を浴びながら働き、動き、未来に向かって進んでいくんだ。夜なんかに閉じこもってちゃ、希望は生まれない」
しかし、暗夜の神、これにまた反論。
「それはただの思い込みだ!昼間は明るすぎて、逆に人は自分の影すらも見失う。強すぎる光は、かえって真実を覆い隠してしまうもんだ。未来っつったっていいもんばかりじゃないだろう。期間限定の月見チーズバーガーが食えなくなったりもする」
こうして、二人の議論はますます熱を帯びていきます。暗夜の神は夜の静けさがいかに希望をもたらすかを主張し、明昼の神は光のもとでこそ希望が花開くと力説し続けますが、どちらも一歩も譲りません。
「いや、夜こそが希望だ!」
「いやいや、昼こそが希望だ!」
とまぁ、こんな調子でいつまでも平行線をたどるわけです…。
こうなってくると、困るのは神様ではなく、地上の人間たちでございます。昼も夜も希望を司りたいと張り合うもんだから、二人とも自分の役目を果たそうと、遠慮なく昼と夜を押し付け合うわけです。
「明昼の神よ、ここは私がやる!夜の方が希望を感じる時間だ!」
「何を言っているんだ!昼間こそが希望の時間だ、ここは私が担当する!」
そんな調子で、一日のどんな時間でもどちらかが「希望」を押し付けてくる。そりゃあ、人間たちはたまったもんじゃありません。昼も夜もごった返して押し寄せてくるもんだから、境目が曖昧になってしまい、まるで働く暇も休む暇もなくなっちまう。夜に凧を飛ばして、昼に望遠鏡を覗くなんて混乱ぶり。真っ暗闇の喫茶店で小倉トーストを食べる名古屋人まで現れる始末です。
昼になっても夜の静けさがどこかに残り、夜になっても昼間の光が消えない。どちらが「希望」だなんていわれても、何が何だかわからなくなっちまう。そうなれば、人々も疲れるのも無理はありません。
「おいおい、昼が何日続いてんだよ、眩しくてしょうがねぇ。ちょっと休ませてくれよ!」
「夜もずっと明るすぎて寝つけないじゃないか!」
人々は不満を口にしますが、もちろんそんな声が神様たちに届くわけがありません。神様ってのは人間の言葉なんて聞いちゃくれないもんで。
で、こうなると面白いもんでございます。昼も夜も、希望として出たり入ったりしてくると逆に「絶望」ってぇやつが顔を出し始めるんです。人々はなんとか神々が頭を冷やしてくれないかと、毎晩祈りを捧げていました。
さてさて、二柱の神様が口論を始めて、もうどれくらい経ったんですかねぇ。昼も夜もなくなるほど続いておりまして、それはもうセブンイレブンも悪い気分になるってぇくらいで。そんな時にひょっこり現れたのが、この賢者さんでございます。
この賢者、どこか涼しげな顔して、鼻歌なんか歌いながら神様たちのところへひょいひょいと歩いてくるんですな。こんな余裕たっぷりの人間が目の前に現れちゃあ、神様たちも黙ってはいられません。
「おい、賢者!どっちが希望を司るべきだと思うんだ!」
「そうだ、夜こそ希望の象徴だと思うだろ?」
「いやいや、昼こそ希望だと思うに違いない!」
「お、おい、それはどういう意味だ?」
ここで賢者さん、したり顔でこう続けます。
「例えば、暗夜の神様。あなたにとって、昼の明るさがあるからこそ、夜が静かに輝くんじゃありませんか?昼がなかったら、夜はただの終わりのない真っ暗闇ですからね。つまり、明昼の神こそ、あなたの希望なんじゃないですか?」
暗夜の神、目をぱちぱちさせながら驚いた顔をして、少し考え込んでます。
「う、うむ…確かに、昼があるからこそ、夜が際立つのかもしれん…。だが、しかし…」
ここで賢者さん、今度は明昼の神に向かってにっこり笑ってこう言います。
「そして、明昼の神様。あなたにとっても、夜があるからこそ、昼の光が眩しく輝くんです。夜がなければ、昼はただの無限の光で人々も疲れちゃいますよ。だから、暗夜の神こそ、あなたの希望なんじゃありませんか?」
これを聞いて、明昼の神もびっくり仰天。
「ま、まさか…。夜があってこそ、私の光が輝くということか…。そう考えると…」
ここで賢者、さらに優しい声でぽんぽんと畳みかけるように言います。
「そうなんです、お互いが希望の存在なんですよ。争うなんて無駄です!お二人とも、互いにいなければ希望なんて成り立たないんですから!」
するとどうでしょう、暗夜の神と明昼の神、急に顔を真っ赤にして、互いに見つめ合うじゃありませんか。ちょっと照れくさそうに、こんなことを言い出します。
「そ、そうか…。明昼よ、お前こそが、私の希望だったのか…」
「うむ…。暗夜よ、お前がいてこそ、私の光は輝いていたんだな…」
こうして、二柱の神様はすっかり和解してしまいましてねぇ。今までの口論がなんだったのかってくらい、仲良くなっちゃいました。
で、この様子を見ていた人間たち。肩を組んで笑い合う神様たちを見ながら、遠くで呆れたように言いました。
「昼と夜が仲良くなるのはありがたいが、昼も夜も暑くるしくって敵わねぇや」
希望 佐倉遼 @ryokzk_0821
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