第8話「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」4


埼玉県立、草加商業高校。綾瀬川と中川の中間にある男子校である。

静かな住宅街の真ん中にあり、犯罪や事件といったものの匂いがまるでない高校だ。


「人が出てこねえな。そろそろ下校時間だよなあ?」


「そうっすね」


庄司と小峰を乗せた車が、高校の正門がよく見える道脇に停車している。


「……高校に直接電話で聞き込みした方が早いんじゃないですか?」


「学ばないねキヨジ君は。目を合わせて会話した方がわかることがあるんだよ。それに……」


庄司はタバコを灰皿に押し付けた。


「高校に電話したらセンセーが出ちゃうだろうが。……子供の方が正直な事があるんだよ」


「そんなもんですかね……」


「お、一人でてきたぞ。いいね。正直っぽそうな顔だ」


庄司は車の窓を開けた。


「こんにちはー!! 君、君。そう。君だ。メガネの。ちょっといいかな」


「庄司さん! 怪しまれませんか!?」


「見ろよキヨジ。あの子……だいぶ戸惑ってるぞ。」


「庄司さんがあんな声の掛け方するからですよ! 怖がってますって!」


「もしくはセンセーに何か口止めされてるとかな」


「まさか!」


「くるぞ」


メガネをかけた少年が、不安げに車に近づいてきた。


「急にごめんね。警視庁のものです」


「け、警察?!」


少年の、メガネの奥の目がまん丸になった。


「……ねえちょっと、聞いていいかな?君、そこの高校の子だよね」


「は、はい!」


「君の高校でさ、最近変わったこと、起きてない?」


「あ……え……っと……」


「先生には君が喋ったって事、内緒にしとくからさ。捜査に協力してくれたら嬉しいんだけどな」


「あ……」


「例えば、野球部とかさ」


すると少年は、後を気にして、静かに話しはじめた。


「えっと……休部になっちゃったんです……野球部」


「……へえ?」


「……何人か急に学校来なくなっちゃって……」


「そうなんだ。どうして?」


「よく・・・わからないです。あ、でも……」


「ん?」


「…… ……言葉が喋れなくなったって」


「……それは野球部全員?それとも誰か一人なのかな」


「あー…… ……全員……なのかな」


「野球部以外の子は?学校来てるの?」


「わからない……ですけど……来てると思います。」


「そっか。……ありがとうね」


「あ…… あの……何が起きてるんですか? 先生達にも、誰にも喋るなって言われてて……」


「言えないけどね。大丈夫だから。じゃあ、勉強頑張れよ」


メガネの少年は、心配そうに車から離れていった。

庄司は、小峰のスマート・フォンを取り上げ、再び動画を見ている。


「やっぱりみんな不安なんですね」


「…… ……生徒の中で数人『英語が喋れなくなる』なんてことが起きたら、学校としては事実を隠蔽するだろう。進学率や生徒数の減少に直結するからな。

 でもいかんせん原因がわからない。そこで学校は、英語が喋れなくなった生徒を丸ごと休学させたんだ。

 正体がなんであれ、臭いものには蓋ってわけだ可哀想に」


「英語が喋れなくなった生徒は、野球部が集中してた……」


「ああ。野球部で何かがあったって事だろうな」





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