第7話「カール・ギブソンがシュートを止めると、日本は国際社会から一歩遠のく。」3



新宿区のオフィスビル地下、通称「omnisルーム」


「omnis、モニターAからCまで出して」


『Roger MINATO』


すると、

静かな機械音と共に、機械たちの『隙間』から2m✖︎2mほどの大きなスクリーンと、それを基準に中位、やや小ぶりなモニター画面が出てきた。


おーいセメント届いてねえぞ!!

さーせん、なんかトラック入ってこれないみたいで!!


地上からは作業員さんたちが土方作業に勤しんでいる。

地表一つ挟んでこの温度差は雲泥の差だ。



「葛原さんはどうしてピィ事案対策部に派遣されたんですか?」


モニターが立ち上がっている画面を虚ろに眺めながら、港は葛原に聞いた。


「わからないんですよ。昨日いきなり……私いらないですよね」


「そうですね」


はっきりと、言い切った。


「というより私とomnisが居れば他に誰もいりません。強いて言えば犯人を確保してくれる実行部隊が居れば助かる程度です。

 では仕事片付けちゃいましょう。omnis アンソニー・ルークスのカルテから社会保障番号をインストール。

 完了次第、彼の年内の日本での動きをモニターにトレースして」


湊がomnisに命じると、大きなモニターに情報が書き込まれていく。


おい!誰だここのタイルやったの!図面と違うじゃねえか!

さーせん!!


相変わらず地上とはものすごい温度差だ。


「アンソニー氏は、7月7日、夜9時に羽田空港着。その後品川のホテルで一泊。

 翌日は下北沢に観光。

 翌日は浅草に行ってますね。・・・。あ、

 想像通りです。アンソニー氏は日本で一度救急車で病院に運ばれてますね」


「喋れなくなったから、救急車を呼んだ……?」


「おそらく同行していた方が脳梗塞を疑った、といったところでしょうか。救急車の出動先は……

 押上。時刻は22時00分。」


「押上。……スカイツリーですかね」


「そうでしょうね。というわけで、事象は21時頃にスカイツリーで発生したということになります」


まだセメント来ないの!?

誰か救急車!

どうしたの!

親方が脚立から落ちた!


「・・・すごいなー。温度差。」


「しかし、入手したカルテはどれも埼玉県を中心に届いています。ということで、次は『フェクター』を探しましょう」


「事象を起こす人……のことですか?」


「もしくは事象を起こす物体、という事です。

 omnis、モニターにマップを表示。年内で埼玉県の脳外科、脳神経内科、心療内科から言語障害を訴えた患者をピックアップ。マップに位置情報をトレース」


『該当、20件』


モニター画面が切り替わり、埼玉県の地図が現れた。そして一つずつ、画面内に赤いポイントが点灯していく。

明らかに埼玉県の中で一ヶ所、赤い点が集中している箇所がある。


「ここは……?」


「埼玉県、草加市のあたりに集中してますね。

 omnis カルテから、マイナンバーをインストール。患者20名の4月から7月の動きを地図上でシュミレート」


地図上の赤い点が線となり広がっていく。線は、さいたま市と、東京都の池袋に向かった線はあったものの、ほとんどが草加市から出ようとしていなかった。


「スカイツリーには誰も行ってませんね」


「そうですね、しかしこれで、『ファクター』は、『草加市にある何か』もしくは、『草加市から移動の少ない人間もしくは生物』という可能性が高そうです」


「うーん……」


葛原がモニター上の地図を見て、あれこれ考えを巡らせている間、

湊は脇の小ぶりな方のモニターを見ていた。そのモニターには、患者のリストが並んでいる。


「葛原さん。これ、見てください」


港は、モニターを指差した。


「……患者はどうやら、15歳から18歳が中心みたいですね。そうなると……例えば部活動をしている高校生に患者が集中しているから、

 草加市から移動が少ないということかもしれません」


「本当だ……。あれ?この人と、この人、苗字が一緒ですけど関係ありますかね」


「……そうですね。里崎さんが二人います。……omnis、リストから患者DとEの個人情報を提示」


大きいモニターに、ある人物の個人情報が映し出された。


「患者D、里崎真弓、52歳『スーパーKOMUSUBI』 パート社員。 患者E、里崎大樹、16歳。草加商業高校学生……」



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