第5話「omnis3が起動すると、湊舞華は勝利を確信する。」
世の中、バカが多すぎだ。
これは湊 舞華が常日頃思っていた事だ。
そしてそれは、警察官になってますます強く思うようになった。
とにかく危機管理能力が低い。いつぞやの災害の時だって、町民が緊急避難できる場所を知っていれば被害はもっともっと抑えられた。
今、この新宿を歩いている人間を無作為に百人引っ張ってきて、有事の際はまずどこに避難すればいいか、答えられる人間はどのくらいいるのだろうか?
どうせ指で数えられるくらいだろう。そのくせ、自分達は他の誰かに守ってもらって当たり前だという顔をするのだ。
そんなおめでたい奴らを、私たちが守ってあげなくてはならないのだ。
ピィ事案の話は、地元秋田の警察庁に勤務している時から東京の元院さんから聞いていた。
これは、自分に課せられた使命だと感じ、「ピィ対策課が新設された暁にはぜひお供させてください!」と頼んでいた。
念願叶い、天職につけたわけだ。
しかし、いざ新宿の街に来てみると、歌舞伎町を歩いている通行人AtoZが、ことごとくおめでたく見えた。
元院さんはともかく、このピィ事案対策課の面々もそうだ。
庄司とかいう男は、なんの展望もなく埼玉県まで行くつもりだ。時間の無駄だと思わないのだろうか。
目の前にいるこの女も、多分、ばかだ。
「あ、ピィ事案……対策……課でしたっけ。配属となりました。葛原です。よろしくお願いします。」
「湊です。…… omnis3の声紋アカウント持ってます?」
「オムニ……? なんのアカウントですか?」
「……じゃあNAILは、持ってますか?」
「…… ……爪の事……?」
「あ、もういいです。まずは元院さんが用意してくれた資料の中にある……
…… アンソニー・ルークスさんの事を調べましょう。」
「ごめんなさい……誰……でしたっけ……」
「…… ……資料に書いてある、言語障害を患ってしまった方です。資料、読んでないんですか?」
「ごめんなさい……昨日配属が決まったもので……。あ、でもそれって聞き込みの人たちが調べてくれるんですよね?私たちは発生場所の特定でしたっけ。」
「庄司さんという方の経歴を軽視するつもりはありませんが、能力が高い人とは言えないみたいです。
1秒でも時間が惜しい中で埼玉県にまで行くなんて論外ですね。
資料に挙げられている被害者のカルテ。
新山さん、遠山さん、里崎さん、ルークスさん。この4名の中で一番とっかかりがあるのはルークスさんです。
ルークスさんは、日本で観光中事象に遭遇している。だから彼の日本に来てからの足取りを追えば、どこで遭遇したのかある程度絞れますね?」
「ああ、はい。そうですね。」
湊と葛原は、オフィスビルの地下に移動した。そこは優先的に内装工事を行わせていた。
ひんやりとした雰囲気の地下室だ。
非常灯しか灯ってないのか薄暗く、小雨が降っているのにも関わらず空調が効いていて、寒い。
地上での喧騒が嘘のような、ただただ薄暗くて静かで、狭くて寒い地下室だ。
「葛原さんタバコ吸います?」
「え?あ、はい。電子ですけど。」
「私も吸いますからそこらへんで吸ってていいですよ?」
「あ……はい。じゃあ後で……。」
葛原は寒そうにしている。
「ごめんなさい。さっきの話ですけど、NAILってなんですか?」
「……National Anomalous Incident Analyst License, 噛み砕いて言うと解析士の資格です」
「それを持ってると、なんなんですか?」
「…… ……Hello omnis」
湊が声をかけると、部屋中から音声が流れた。
『System woking』
その声をきっかけに、薄暗かった地下室が目を開けてられないほどの眩しい光で照らされ、
地下室中の機械が作動し、ブーーーンというハム音が空間を支配した。
そしてそれにより、自分達が狭い地下室にいるのではなく、大量の機械に囲まれた広大な地下室にいたことがわかる。
『Hello MINATO 』
ここは湊が元院に用意させた、いわば電子室だ。
「先ほどの質問に答えてませんでしたね。
このomnis3には、日本国民のマイナンバー、中国国民の居民身分証番号、アメリカ国民のSSN、イギリス国民のNINなど、世界中の社会保障番号に紐づいており、個人情報を管理してます。
解析士の資格があれば、特事法、緊急個人情報解析法に基づいていつでも閲覧できます」
葛原は、呆気にとられただただ立ち尽くすのみだった。
「それじゃあお仕事始めますか。埼玉組が帰ってくるまでに事件解決させましょう。」
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