♯3
並び建つそれぞれのビルに人の群れが吸い込まれてゆくなか、あたしと神様だけがその流れに抗って街路樹に身を隠していました。
狙う獲物は、ただ1人。
上領さんもそろそろ出社してくる時間帯です。
「あっ、来た! あそこの眼鏡を掛けたイケメンがそうです!」
「……よし、一撃で沈めてくれるッ!」
「やっぱり
神様が上領さんに向かって全力疾走する。
やがて、彼の前に立ち塞がると、大きく息を吐いて身構えました。
「……なんですか、あなたはいったい? 邪魔だから、そこをどいてくれませんか?」
不快そうな表情の上領さんが、片手の中指で眼鏡の位置を直しながら先を急ぎます。
けれども神様は──。
「喰らえッ!
全身から真紅の
「ぶぐッ……ハァァァ……?!」
ああ、憧れの上領さんが膝からスローモーションで崩れ落ちてゆく。
さようなら、あたしの恋……。
「……って、上領さんを助けなきゃ! 上領さんっ!」
急いで駆け寄ったあたしは、歩道にうつ伏せで倒れる彼の背中を何度か揺さぶる。
すると上領さんは、何事もなかったかのような清々しい表情ですぐに起き上がってくれました。
「上領さん、大丈夫ですか!? お腹痛くないですか!?」
「キミは確か…………そうか、キミが僕の運命の
「!?」
突然の熱い抱擁とキス。
これって……夢……なのかな?
現実……だよね?
ロマンスの神様、どうもありがとう……!
「おい直斗……その女は誰だよ? オレたち、付き合ってたんじゃないのかよ?」
「えっ? 誰ですか、この人?」
あたしたちを取り囲むギャラリーから現れた、スーツ姿の若い男性。
見るからに不機嫌そうで怒ってます。
「ああ、僕の
「彼氏!?」
なんということでしょう。
二刀流の噂は本当だったみたいです。
気がつけば、神様の姿が見えません。
あの野郎……逃げやがった!
「直斗! この女とオレ、どっちを選ぶんだよ!?」
「そ、そうですよ! この際だから、ハッキリと決めちゃってください!」
「う~ん……」
対峙するあたしと彼氏さんに挟まれる格好となった上領さん。
数秒考え込んでから、ついに重い口を開きました。
「それじゃあ、
「先手必勝ッッッ!!」
「──ぶるごッ?!」
光速で繰り出されたあたしの幻の右フックが彼氏さんの下顎を砕いたところで、このラブストーリーはお終いです。チャンチャン♡
─終劇─
自称ロマンスの神様がどう見ても武者修行中の空手家なんだけど、藁にもすがりたい気分だから一応お願いだけしてみた。 黒巻雷鳴 @Raimei_lalala
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