第4話

ボールを小脇に抱えて距離を縮めてきたキャプテンは、


「仕方ねぇから、胸を貸してやる」

とぶっきらぼうにそう言って、空いた手を伸ばして私の頭を乱暴に引き寄せた。

キャプテンのシャツは少し石鹸の匂いがした。

温かい胸に顔を埋めて、少しだけ泣いた。


「泣きたいだけ泣いたら、また笑え。お前には笑顔が似合ってる」

背中をポンポンと叩いてくれたキャプテンの手は温かくて大きかった。


止めたつもりの涙が溢れた。

こんなので明日になったら笑えるかな?


明日からは貴方は居ないのに。

今日は、貴方の引退試合。

もう明日からはこの場所に、貴方の姿はないのに。


「よし、これが入ったら無理してでも笑え」

キャプテンはそう言うと私の肩を離して、少し離れた場所に立った。

こんな場所から入るわけないじゃん。

スリーポイントエリアのそのまた向こうのセンターサークルなんだよ、ここ。


奇跡でもなければ入るはずはない。


でも・・・もし入ったらなら、この悲しみは笑顔に変わるのかな

私を見てニカッと笑ったキャプテンは両手で持ったボールを綺麗なフォームでシュートした。


放物線を描いて飛んでいくボールを息を飲んで見守った。


どんどん伸びていくアーチ。

ポスッと音が聞こえそうなほど綺麗にボールはゴールポストへと吸い込まれた。



「嘘っ」

驚きに上げた声。


「俺、天才」

キャプテンは自信満々にピースした。



フフフ・・・入っちゃった。

本当、この人は不思議な人だな。


奇跡を起こしたキャプテンのお陰で、心が軽くなった。



「笑っとけ。そうすりゃ前に進める」

「・・・そうですね」

もう一度フフフと笑った。


「おう」

そう言って笑い返してくれたキャプテンに、心から感謝した。


ねぇ、私、笑えたよ。

今はまだ貴方の事を過去には出来ないけれど、きっと過去に出来る日が来るような気がする。




さよなら・・・・・大好きな人。

さよなら・・・・・私の初恋。

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さよなら…… 蒼空∞ @SORA_MG

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