第34話 地下3階 徽章入手

 私の勝利の雄叫びでも、2人は目覚めなかった、自分のせいとはいえ、流石に熟睡しすぎではないだろうか。


 幸せそうに眠るパルマの頬を指でつんつんしながら、私は物思いに耽っていた。


 なんとなく、自分が以前より強くなったような気がしていた。以前の私なら、サナの支援無しで7体同時に相手をしても、せいぜい3体程度しか倒せなかっただろう。


 でも、剣の技術が上がったということでもない気がする。そうじゃなくて、なんというか立ち回りが上手くなったというか、慣れてきたんだと思う。そもそもの土台がただの村娘でしかない私が、少しずつ戦闘に慣れてきたということだろう。


 でも、これは元が低い分伸び代があったというだけで、決して勇者候補として才能があるということではないはずだ。多分それなりの冒険者であれば、今の戦闘ももう少し上手く乗り切るはず。実際のところ、ギリギリの勝利だった。最後なんて9割は死んでいた。気合いで1割を掴み取ったに過ぎない。


 今後どうするべきなんだろう。サナからの又聞きにはなるけど、神様が言うには私には剣術の才能があるらしい。本当かどうか疑わしいけれど、それを信じるのであれば、本格的に剣術を学んでみるのも手かもしれない。


 だって、今の私は木樵きこりの真似事しかできていないのだ。誰かに師事したわけでもないし、誰かが剣を振っているところを見たことだってない。両手剣や槍や、短剣の中から細剣を選んだ理由は、細くて比較的軽く、自分の身長に合っていたから。ただそれだけの理由だ。実際、左手は空いているのに盾を持っているわけでもない。ど素人なのは見る人が見れば分かるだろう。


 誰かに師事した方がいい気がする。今のままだと、いずれどこかで躓いて、そのまま死んでしまう。せっかく才能があるのであれば、それを活かすように鍛錬した方が良い。


 ただ問題は……。


「時間が無いのよね……」


 勇者候補の最優先目標は強くなることじゃ無い。試練をこなして勇者になることだ。そして8人、いやもう残り6人か。6人の中で誰よりも早く、1つしか無い席を奪い取る、早い者勝ちの競争をしているのだ。そんな中で何週間、何ヵ月も修行に費やす時間的余裕はない。そして師事する人を探すところから始めなきゃいけないため、余計に時間がかかってしまう。


「はあ、どうしたらいいのよ……」


『ん……おはよ、エイナル。特に異常は無かった?』


 悩みに答えが出ない内に、サナの目が覚めた。


「まあ、無かったといえば無かったけれど、あったといえばあったわね……」


 魔石は回収したけどスケルトンの死体は消えたしシャドーは霧散した。怪我もしてないし、誰も見ていなかったから敢えて蒸し返す必要も無い。


『どういうこと?ていうかなんでパルマは寝てるの?』


「私が勝ったからね、サナは負けたのよ」


「???」


 さて、サナも起きたしそろそろパルマを起こして探索を再開しよう。強くなる方法については、徽章を回収してここを無事に脱出してから考えよう。




 ⬛︎




「着いたわね」


「疲れた」


『ここまで長かったね、わたしはエイナタクシーで楽勝だったけど』


 目の前には下り階段がある。地下3階への階段だ。時刻は夕方の5時過ぎ。今日一日かけて、なんとか地下2階を攻略することが出来た。道がひたすらに長いだけで、罠も分かりやすいし魔物もそこまで強くない、振り返れば思っていたよりも難易度の低い試練だったと思う。ちゃんと対策すれば攻略出来る設計だった。勇者候補としての最低限の資質を試されているんだと思う。つまりここまで生き残った私とパルマには資質があるということだ。例えいちゃついた結果死にかけたとしてもだ。


『確認なんだけど、この先は広間が1部屋だけで、徽章が置いてあるんだよね?魔物も出ないとか』


「そうよ、だから徽章を手に入れたら今晩はここで休んで、明日から復路ね」


『私の前いた世界だとね、こういうダンジョンの最深部っていうところには、ボスって呼ばれる他よりも数段強い魔物が待ち受けているものなんだけど、本当にそういうのはいないの?』


「何回も言ったでしょ。そういうのがいるっていう情報はないわ。いたとすれば記録に残っているはずよ。何度も確かめたじゃない」


 試練の遺跡に入る前の段階で念入りに下調べをしたがそういう情報は無かった。それに遺跡の入り口の男性も知っていたら教えてくれたはずだ。あれだけ心配してくれていたのだ、隠す理由が無い。


「さあ行くわよ、入って徽章を回収して拠点を作っておやすみなさいよ。魔物が出ないんだから今日はぐっすり眠れそうね」


「うん、今日はゆっくり眠りたい。行こう」


 階段を下る。これまでの階層移動の時よりも長い。少し深めに作っているようだ。3、いや4倍は深い気がする。


 長い階段を降りると、事前情報通りそこは広間になっていた。50メートル四方くらいの広さで、天井が高い。10メートルくらいはありそうだ。奥には小さな祭壇のようなものがあり、なんと灯りが点いている。


 奥へと進み、祭壇の前まで辿り着いた。灯りは四角い手のひらサイズの球体から発せられてる。どういう仕組みかは分からないが光が消えないようになっているみたいだ。そうでなければとっくに消えてしまっているはずだ。


「遺留品、無かったね」


 パルマがポツリと呟いた。入り口の男性に言われていた件のことだろう。私たちより先に入って帰らなかった勇者候補は、どうやらここ以外の場所で死んでしまったようだ。残念だけれど私たちにはどうしようもない。


「仕方ないわよ。それよりも、これが徽章で良いのかしら?」


 祭壇の上には、細かな彫刻が施された金属らしき物が何個も置かれている。私たちが2個取っていっても余るくらいの量だ。本当にこれが徽章で合っているのだろうか?


『わたしが先行した勇者候補だったら、全部持って帰るけどね』


「性格悪いわね。でも確かにそうすると思う。後から追いかけられなくて済むもの。そうしなかった理由は何かしら?」


「多分拾えば分かる」


 言うが早いか、パルマが1つ手に取って服の襟に徽章を取り付けた。そしてもう1つと言うかのように、再び残った徽章に手を伸ばすと。


 バチッ!


 音が鳴り、それとともに青色の閃光が走る。パルマが痛そうに手を押さえていた。


「ちょっと!大丈夫?怪我しなかった?」


「……大丈夫、痛くはない、衝撃があっただけ。でもこれで分かった。ズルは出来ない」


「無茶しないでよ、もう」


 言いながら私も1つだけ徽章を手に取り、服の襟に取り付けた。


『わざわざこんな仕組みになっているんだから本物で間違いないと思うよ。さあ、これでとりあえず目的は達成したね』


 サナの言う通り目的はこれで達成した。あとは一晩この部屋で過ごしてから地上へ戻るだけだ。


 さあ拠点設営をしようか。そう言おうとした時だった。


「間に合わなかったわね、でも2人もいるなら逆に好都合だわ。ここで始末してあげる」


 声が聞こえた。振り向くとそこには。


 背中に蝙蝠のような翼と、頭に羊のような角の生えた、なんか卑猥な装備の巨乳の女の子が宙に浮いていた。


 何こいつ、私とキャラ被ってるわね。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る