第19話 パーティ結成

 コップを使えば良かったと後悔している。


「情熱的だった。あえて唇をなぶるようにして、鼻まで舐められた。あれは情欲がなければ出来ないはず。死にかけの私を前にして、大義名分を得たエイナルは抵抗できない私を舐めまわした。私は覚えている」


 まずい、どう言い訳をすればいい。考えろ私、考えろ考えろ考えろ。


「エイナルが女性に欲情するのはエイナルの自由。私も恋愛に男女は関係ないという考えだから気にしなくてもいい。あれだけ感情を込められてキスされたのだから悪い気はしない。だから隠さなくてもいい。私は都合の良い女で構わない。エイナルの役に立ちたい」


 唇じゃなかったからキスではないと言えばじゃあなんだったのという話になって詰む。顔を汚したのは事実だしパルマも覚えているから否定できない。死を目前に控えた状態でまるで遊ぶように顔を弄ったから私がパルマに気があるというのも否定するのは難しい。


(どうすればパルマを傷つけずに、変態の汚名をすすぎつつ、勘違いを正すことが出来る?考えろ考えろ考えろ)


『無理だよ、諦めなよ』


(私の心を読むな!あんたも考えなさいよ!このままじゃ私が女好きで、それだけならまだしも人の命を前に性欲を優先する変態にされてしまうじゃない!!)


「……エイナルは今まで生きづらかったんだと思う。でも今は私がいるから安心していい。私の体を好きにしていい。命を救ったのだから当然の権利。私はエイナルのもの」


 パルマが私に抱きつき、私の胸に頬を擦り付けて、愛おしそうに上目遣いで私を見上げる。


(顔が良い。可愛い)


『今可愛いって思ったでしょ。やっぱりそういう趣味があったんだね、お尻を押し付ける時に意図的にオーバーな位置調整をしていたんだね。その上でわたしの魔法をディスっていたんだ。最低だよエイナ』


(違う!可愛いけど!純粋で精神的に愛おしいという感情から派生した可愛さであって、断じて性的な目で見ているわけではない!)


「……さっきから私ばかり話している。エイナルの気持ちを聞かせて欲しい。私にキスしただけで飽きてしまった?その先が欲しいなら構わない。脱いだ方がいい?」


 パルマが羽織っていたフード付きローブを脱ぎ出した。って迷宮のど真ん中で何し始めようとしてんの!?


「んんー分かった!分かったからローブを着て!」


「エイナルは服を着たままするのが好み?それとも脱がすのが好き?」


「ちがぁぁう!!こんなところでおっ始めるわけないでしょ!危ないから!分かったのは組むっていうことよ!組んず解れつじゃないわよ!パーティを組むの組むだからね!」


「分かった、エイナルの好みに従う。らすのが好きなら我慢する」


 ああもうそれでいいわよ。女の子が好きなのももうそれでいい。でも生き死に目前で性欲に従ったと誤解されるのは嫌だから後でどうにかしよう。全てを解決するのは無理だから優先度を設定すればいいんだ。うん。解決した。


「分かったら戦闘準備して、前からスケルトンが来るわよ」


 先ほどから足音がしていたのには気づいていた。だからこそこんなところでイチャつくわけにはいかなかった。


『気づいていたんだね、良かったよ。パルマとイチャつくのに夢中みたいだったから、邪魔しちゃ悪いと思って言い出せなかったんだ』


 嘘を吐くんじゃないわよ、いざとなったら教えてくれるくせに。あーそれにしてもどうしようかしら。パルマと組むってなったらサナのことを伝えた方がいいのか、伝えない方がいいのか悩むわ。


 私がスケルトンを尻目に戦闘以外のことに思考を逸らしていると、パルマがずいと前に割り込んできた。


「ここは私がやる。エイナルの力になれることを証明する」


 なるほど、実力を見たいって言ったのは私だしちょうどいい機会かもね。


「頼むわね、魔法を見る機会は少ないから興味があるし」


「了解、唱える、あしっどらんす」


 パルマが小さな儀礼剣をスケルトンに向けて、可愛らしい声で気の抜けた呪文を唱えた。それが聞こえた直後、紫色の液体の槍がパルマの正面に形成された。


『連鎖ボイスじゃん!その手があったかっ!声色で魔法使いというキャラ被りを回避するなんてっ!ぼよえ〜ん!!』


 サナが何やら言っているがさっぱり意味が分からない。


 紫色の槍がスケルトン目掛けて飛んでいき命中した。あの槍には物を溶かす効果があるようだ。スケルトンがゆっくりと溶けていき、崩れ落ちていく。やはり魔法は強い。


「すごいじゃない。魔法って強いのね」


「少し強くやりすぎた。燃費を考えるともう少し小さくても良かった。見栄っ張り、反省する」


「燃費?使える回数に制限があるの?」


「使用すると魔力が減る。寝れば回復する。今の威力だと1日10回くらいしか撃てない。撃ち切ったら倒れる」


 なるほど、魔法使いも楽じゃなさそうだ。仮に威力を半分にして回数が倍になったとしても20回。魔法だけじゃこの試練は乗り切れないというわけか。


「他にどんな魔法が使えるの?」


「キス1回」


「うん?」


「キス1回につき、1つ魔法を覚える。だからキスして」


 いやそんなわけないでしょ、どうやってここまで来たのよあんた。ていうかそもそもあれはキスじゃないし。救命措置だし。


「嘘を吐くんじゃないの。まあ後々のちのち分かるだろうから今は内緒でも別にいいわよ」


『エイナ、わたしも実は制限があるんだ。キスしないと爆発四散してしまうんだよ。キスしよ』


 これ以上私の頭を痛くしないでよ。おかしくなっちゃうから。




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