第18話 パルマ 初キスはアレの味

 意識を取り戻したパルマを連れて、地上へ向けてここまでの道のりを戻る。パルマには後方を注意して貰いながら進んだ。


「ここ、罠があるから踏まないようにしてね。パルマが受けた矢と同じのが横から飛んでくるから」


「……気づかなかった。来る時は運が良かっただけ?」


 パルマが突起を避けるように壁際を歩く。足取りも悪くなさそうだし、毒からは完全に回復しているように見える。射程の問題はあったけれど解毒魔法の効果は上々のようだ。もしサナがいなければ、彼女の窮地には間に合わなかっただろうし、いずれは私も毒で死んでいたかもしれないと思うと背筋が寒くなった。勇者の試練とはどこもこんなふうに死の危険が潜んでいるのだろうか。


 そもそもまだ試練は始まったばかりで、全部で8つ、厳密には9つある内の1つしか私たちは知らない上に、それもまだ足を踏み入れた程度でしかない。これからも難易度は上がっていくのだろうし、いくらサナがいるとはいえ、例えば首を一瞬で刈り取るような罠などがあり、それに引っかかってしまえば回復魔法を使う暇なんてないのだから、そのまま私はあっけなく死んでしまうだろう。十分に注意して進まなければいけない。


「来る時には慎重に調べながらきたつもりだけど、見逃しもあったかもしれないから帰りも気をつけましょうね。例えばこの床の突起が壁にあったりするかもしれないし、不用意に触るのは避けた方が無難よ」


「勉強になる。エイナルは冒険者歴は長い?手慣れているように見える、その割には若い」


「まだ冒険者になってから1カ月も経っていないわよ。慣れているっていうほどじゃないわ。迷宮に入るのだってこれが初めて。歳は15よ」


「そう、頼れる姉という感じがする、もう少し上かと思っていた。私は17歳」


『頼れる姉か、節穴お目目ちゃんだね』


 サナが一方的に茶化して来る。言い返せないのが地味にイラつくけれど、パルマの前で独り言を披露するわけにもいかないので黙って聞き流すしかない。ムカつく。実際に妹がいるし、私は姉なんだけれど。


「あら、じゃあ敬語を使ったほうが良いですか。あまり得意ではないのですが」


 パルマが年上だと言うので、丁寧な口調を意識してみる。もちろんふざけているだけだ。相手が年上だろうと、私はこれまでこの口調しかしてこなかった。


「ふふっ、構わないから元に戻して。私のこれは素なので気にしないでくれると嬉しい」


 声は笑っているのに、不思議と表情は変わっていない。不思議な子だ。


「それなら普通に話させて貰うわね。さっきパルマは私が頼りになるって言ったけれど、私の方こそパルマには驚かされたわ。馬車でのスリの話なんだけど、何あれ?そっちの方こそ手慣れているように見えたけれど」


「手慣れてなんていない。あれは知人の真似をした、今までに盗んだこともない。本業は魔法使い」


 魔法か。私は魔法使いの知り合いがサナしかいないから、一般的な魔法使いというものに詳しくない。あまり踏み込んだ話をすることは出来ないけれど、この機会に知っておいた方がいいかもしれない。


「……私はただの剣士よ。魔法を使えないから、パルマが羨ましいわ」


「そう、逆に私は剣が出来ない、だからエイナルが羨ましいと思う」


 私の逆パターンか。それもそれで苦労しそうよね。神様もなんで私たちみたいな半端者を選んだのかしら。両方出来るやつを8人選べば良かったのに。


「だからお願いがある。一緒に試練を攻略して欲しい。貴方にとっても悪い話ではないはず」


『ちょっと!エイナは私のだよ!勝手なことを言い出さないでよ!』


 うるさいわね、少し黙っていて欲しいんだけれど。


「……パルマの提案は合理的だと思う。この試練は複数人で攻略することが前提になっている。魔物の住む地下で何泊もしなければいけないし、私たちの前に入った6組の内、4組は生還して、2組はソロ。ソロの2組は帰って来なかったらしいわ」


「……そう、なら組むべき。1人では無理」


「私も組むべきだとは思う。勇者候補同士が組んではいけないなんて規則は無いしね。だけどお互いの実力も分からない状態で組むのは嫌よ。強い弱いじゃなくて順番の話なの」


「私は組むつもりでいる。どちらかが強くても弱くても組む。結果が変わらないなら順番は関係ない」


 まさか言い返されるとは思わなかった。案外頑固な性格をしているな、この子は。


「頑固ね、どうしてそんなに私と組みたいのよ。ギルドで手伝ってくれる人を探せばいいじゃない?」


「キスした」


『「は?」』


「エイナルはわたしにキスした。ファーストキスの責任をとって」


 何言ってんのこの子……。それに私キスなんてしてないわよ。


「キスなんてしてないわよ」


「嘘、唇に感触を感じた。解毒薬を飲ませてくれた。見えなかったけど覚えている」


『「あ……」』


「助けてくれたエイナルの役に立ちたい、私がエイナルを勇者にする」




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