第17話 助けたのに罪悪感に襲われるってどういうこと
体内の毒は解毒に成功した。次は腕についた毒矢による外傷を治さなければならない。
『ヒールウィンド』
キュル。
「んっ!」
プゥ。プゥ。プッ。
何か聞こえた気がするけれど、先ほどの醜態と比較したらそれこそ屁のようなものなので気にしてはいけない。人の命を助けるためにはあらゆるものを犠牲にしても足りないのだ。羞恥心や虚栄心に惑わされていては、なすべきことをなせずに終わってしまう。私はサナと出会ってそれを知ることが出来た。知らなくても良かったかもしれない。
下着をあげてから、あらためて倒れている女の子の傷を確認してみると、先ほどよりも傷が目立たなく、少しずつ塞がっているのが分かった。ヒールウィンドの魔法には、解毒と合わせて回復効果もあるようだ。むしろ回復効果の方がメインなのかもしれない。
「すぅ……すぅ」
呼吸も安定しているし、しばらく寝かせておいてあげよう。外套を畳んで枕を作り、頭を持ち上げて床との間に枕を挟む。
「どうにかなったわね、助かったわ」
『わたしたちは地獄に落ちるかもしれないね』
「何言ってるのよ、人の命には変えられないわ。私たちは正しい事をしたの、そう思わなきゃやってられないでしょ?」
『意識のない人の口に無許可で肛門を押し付けて水溶性の排泄物を飲ませた挙句、おならをぶちかますという所業を評価してくれる人がいるとしたら、その人は頭がおかしいとしか言いようがないね』
「違うわ、今にも死にかけの人を助けるために、恥を捨て、おなかを痛めてまで献身的に介護したというのが客観的に見た私たちの実績よ」
『見解に相違があるよ、わたしにはエイナが笑いながら下痢便ジュースを飲ませていたように見えたけれど。サイコパスだと思ったよ』
「字面だけで笑っていたと読み取ってしまうのは読解力の低さを物語っていると言えるわね。低いのは魔法の毒解力だけにしてちょうだい。あとそのなんとかジュースっていうのは下品だからやめて」
「うぅ……私、まだ生きてる……?」
女の子が意識を取り戻したようだ。目を開けて周囲を見回している。
『ここからはエイナが上手く誤魔化しなよ。自分の行為を正当化すればするほど罪悪感は重くのしかかってくるだろうけど、エイナが言う通りならそうはならないはずだからね、じゃあね』
そう言ってサナは引っ込んでしまった。クソッ、言うだけ言って逃げやがったわこの無能寄生虫め。
女の子のそばに寄って話しかける。
「大丈夫?痛いところは無いかしら?」
「貴方は、馬車で一緒になった親切な人……?」
「エイナルよ。あなたと同じ勇者候補ね。助けが必要そうだったから、周囲の安全を確保してから今はこうして介抱していたところよ」
それにしても、あらためて見てもとても綺麗な顔をした子だ。肌の白さに、空色の髪がとてもよく似合っている。頬や目の動きが小さく、表情に乏しいけれど、逆にそれが、まるで最初から美しく作られた人形のように見える。
「そう、ありがとう。私はパルマ。勇者候補で、罠にかかって毒矢を受けた。貴方のお陰で生き延びた。礼をさせて欲しい」
『罪悪感ズーン』
サナが茶々を入れてくるけど気にしてはいけない。悪ふざけだと思えば可愛いものだ。
「良いのよ礼なんて、当然のことをしただけだから」
「だけど、少なくても解毒薬は使ったはず、起きた時に口の中にまだ少し残っていた。以前にも飲んだことがある、あの苦味は覚えている」
「ええ、飲ませた、わね」
『ズーンズーンズーン、イェズンズンズン♪』
サナが軽快な調子で歌うが無視する。
「これほど速効性の解毒薬は高価なはず。礼をさせて欲しい」
「まずは地上に出ることが先よ。ここはまだ遺跡の中だし、松明の油が切れる前に戻らなきゃいけないけれど、動ける?」
『ちなみにヒールウォーターはあくまでも水だから、苦味はないはずだよ。苦味を感じたとしたらそれは……』
「大丈夫、動ける……どうかした?」
「……なんでもないわ、パルマ。足元に注意してね。それじゃあ帰りましょうか」
この秘密は墓まで持って行かなければいけないようだ。少なくともパルマには伝えられない。知られてはいけない。
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