第16話 毒を持って毒を制す

 フードの人物が倒れ込んだ。どこか怪我をしているのかもしれない。


 近寄って様子を伺う。くそ、フードが邪魔だ。


「失礼するわよ」


 被っているフードを取り払う。


 フードの下は、整った顔立ちの女だった。髪は空色で、耳の下あたりで切り揃えられている。白い肌は育ちの良さを感じさせた。しかし今は、苦痛に耐えているのだろう。汗を大量に掻いて、呼吸が一定じゃない。この症状は……。


「毒……?」


『多分毒だと思う。失礼ながら透視させてもらったけれど、大きな怪我はしていないように見える。ただし左腕に小さなかすり傷みたいなのがある。おそらくさっきの落ちていた矢が原因だろうね』


 それならば一刻も早く解毒が必要だろう。


『サナ、助けてあげることはできる?あなたなら魔法で解毒できるんでしょう?』


『それは、そうなんだけど、解毒魔法は難しいんだ。エイナが相手ならわたしが体内にいるからなんとでもなるんだけど、他の人相手となると……』


「そんな!じゃあこのまま見殺しにするしかないって言うの?」


 それはあんまりじゃないか、このまま苦しみながら死んでいくのを見ていることしかできないなんて……。


『……いくつか方法はあるけれど、その中でマシな手段を提案することは出来る。エイナもその子も、やらなければ良かったって後悔するかもしれないけれど……』


「あるならさっさと言いなさいよ!人の命がかかっているのよ!この子だって死ぬよりはマシに決まってるでしょ!さあ早く教えてよ!」


『……ヒールウォーターを直接口に飲ませるのと、器に移してから飲ませるのとどっちがいい?即効性があるのは直接のほうかな」


 ヒールウォーター?それって魔法の水ってことよね?直接飲ませる?


「は?どう言うことよ?」


『解毒効果のある水を、その子の口にエイナがお尻をくっつけて飲ませるか、コップに貯めてから飲ませるかだよ、その子は意識がないみたいだからエイナが決めるんだ』


「何よそれ、それじゃあまるで……」


 私の排泄物を飲ませるみたいじゃない!!!?しかも私の意志で!?


「うぅ……」


 女の子が呻いて苦しんでいる。もう時間が少ないかもしれない。でも……。意識のない女の子にそんな酷いことを、私がするの?


『器を使うと距離減衰で効果が弱まる恐れがあるから、出来れば直接の方が良い、見た目が良くないのは今更だし、幸か不幸かこの子も意識がないから恥をかくのはエイナだけで済む。私の言いたいことは分かるね?』


 実質一択じゃないか!!なんでこんなにタイミングよく不都合な状況がやってくるのよ!!大体なんなのよ解毒魔法の距離減衰って!


「ヒールウォーターがあるならヒールウィンドだってあるんじゃないの?風でどうにか出来ないの?」


 まだおならの方がマシだ!この際それでも我慢するからお願い!


『あれは外傷用なんだ。矢の傷跡に後で使う必要はあるけれど、今優先するべきは体内の毒の浄化だから、そうなると液体を飲ませるのが最高率だし、そこは譲れないラインだね』


 譲れないラインだね、キリッ。じゃないわよ!!やる方やられる方の身になって考えなさいよ!!こんなの一生物のトラウマになっちゃうわよ!!


「あんたマシな手段って言ったわよね!?これより酷い手段があるなら言ってみなさいよっ!!」


『エイナ、こんなふうに無駄な問答をしている時間は無いんだよ。彼女の苦しそうな姿を見てみなよ。これを見てまだそんなズレたことを言っていられるの?』


「ごふっ……」


 女の子が血を吐き出した。まずい、もう時間がない。


『エイナ』


「わっ、かったわよっ!!やれば良いんでしょやれば!!」


 下着を脱いでスカートを捲り上げる。女の子を仰向けに寝かせて、肩のところでまたいでお尻を顔へ向ける。


「これで、良いわよね?」


『エイナ、ダメだよ、直接だ。それでは口から溢れてしまう。直接と言ったら直接なんだ。アヌストゥマウスだよ』


 お尻から出た後の方向くらい操作して見せなさいよ!なんで直飲み限定なのよ!


「……ごめんね、恨んでくれていいからね、私のことを許さなくてもいいから。それでも私はあなたに死んでほしくないの」


 覚悟を決めて腰を下ろす。柔らかいあれが触れた感触がした。私は今ものすごく罪深いことをしている。美少女の柔らかいあれを、私のお尻で汚しているのだ。何回死んでも足りないくらい、私の罪は重いだろう。もしここまでして助からなかったら……。


『エイナ、中心からずれているよ、もう少し右、あ、行き過ぎた。戻って、違うよそこは鼻だ、下に行って。うんそこ。そのまま押し付けて無理やりアレを開かせて、グリグリして。うん大丈夫、スカートで隠れているし、女の子のスカートの中は宇宙に繋がっているから実質セーフだ。よし、行くよ、ヒールウォーター!』


 ギャルルル。


「んんんっ!」


 腹痛が私を襲う。何がなんでも今回は我慢しなければいけない。出してしまえば、被害に遭うのは私だけでは済まないからだ。


 おなかで水が蠢いているのが分かる。腸が水を外へ外へと押し出すように脈動し暴れる。ガスがコポコポと音を立てて逃げ場を探している。我慢しなければいけないのだが、毎回、私の体感では漏らしてしまっている。実際には漏らしていない筈だけれど、今回は曲がりなりにも水を出しているわけで、つまりいつもより漏らしている感が強い。もはや漏らしているのか漏らしていないのか確信が持てない。私は我慢できているのか?さらにいつもより時間が長いから腹痛も長く続いている。


 キュル、ギュルル、ギュンギュン。


「んんふ、ふっ、ふふ」


 耐えているのか、耐えられていないのか分からないまま、地獄のような時間が続く。私の口から、まるで笑いを堪えているような音が漏れる。


 おなかの音はギュルルとか、キュルルで済んでいるけれど、お尻の方からはよろしくない音が聞こえている。


 ビュルル、ピュルル。ゴクン、ゴクン。


 私の水っぽい解毒薬を、可愛らしい女の子が、流し込まれるまま嚥下する。


 果たして不純物が混じっているのかいないのか、腹痛に苦しむ私にはもはや分からない。


 長い間そうした時間が流れてやっと放出が止まった。私は腰を上げ、ハンカチでお尻に付いているヒールウォーターの残滓を拭い、下着を履き直した。振り返り見下ろすと、女の子の口元も同様に濡れていた。苦しげだった表情は穏やかなものに変わっている。ちゃんと呼吸もしているようだ。私はハンカチで汚れた口元を拭いてあげてから気がついた。あ、これお尻を拭いたやつだった。



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