第11話 ギリギリの戦い

 草木を掻き分ける音と一緒に、10メートルほど先の木の影から巨大なクマがこちらを覗いていた。


『異世界のウルフは随分と大きいんだね、まるでホッキョクグマみたいだよ』


「あれをみてウルフと間違う?どう見てもクマでしょクマ!」


『ウマ?』


「ク!マ!」


『冗談だよ、それにしても口は災いの元というか、なんというか。いずれにせよ逃げられそうな感じはしないし、頑張って倒すしかないね』


「私の話を聞いてた!?剣が通じないのよあの毛皮には!?」


『エイナこそわたしの話を聞いていないじゃん。高威力の魔法は相手もろともエイナの尊厳を破壊するんだよ。魔法を気軽に使うなっていう神様からの警告、使ったら最後、神の怒りがエイナを焼くんだ。再生はできない』


 クマがのしのしとこちらに向かって歩いてくる。もう10秒もしないうちに戦闘になる。


「やるしかない……!」


『ひとまずわたしの方で気を引くから試しに攻撃してみてよ。エイナの攻撃が通じるか通じないかはやってみないと分からないし』


「あんたはその間に勝つ方法を考えてよね、作戦参謀!」


『わたしはあれの気を引く文言を考えるだけで精一杯なのになぁ……まあ努力してみるよ。それじゃあいくよ、dつぇrじょおいひうび』


 寄生虫が例の呪言を発し始めた。クマが周囲を見回して発生源を探している。残念ながらその声は回避不可能だ。私が1番よく知っている。


 私はクマに走り寄り、顔面目掛けて袈裟に斬りかかる。クマが首を振って斬撃を嫌がった。


 ザスッ!


 手応えは良くない、脂ぎった毛で防がれた気がする。効果を確認する前に、後ろに跳ね退く。私がさっきまでいたところにクマが前足でフックを打っている。


 私の斬撃はやはり効いていないようだ。せめて鼻先に当たれば怯ませられたろうに、ギリギリで回避されてしまった。


 突きならある程度傷を負わせることも出来るだろうけど、抜くことが出来なかった場合に大きく隙を晒すし、武器を失う可能性もある。容易には繰り出せない。


「やっぱり難しいわね、これならどうかしら?」


『rdbじjnybもkbcxd』


 寄生虫が引き続き呪言を唱えている。晒した隙を突いて、解体用のナイフを顔面目掛けて思い切り投げつける。ナイフが鼻っ柱に当たる。クマが少しだけのけ反って怯む。怯んだクマの動きが一瞬止まった。ナイフを投げると同時に距離を詰めていた私は、細剣を横薙ぎに、クマの両眼を目掛けて振った。


「ヴェアアアア!」


 手応えあり!クマの両眼が切り裂かれ血が吹き出した。再度後ろに下がって距離を取り様子を見る。


『効いてるよっ!その調子……でもすっごい怒ってるね、あれじゃ手がつけられないよ』


 寄生虫の言う通りだった。視界を奪うことが出来たとはいえ、逆に厄介な状況になってしまったようだ。


 怒り狂ったクマが、四つん這い状態から立ち上がって辺りに見境無しに前足を振るっている。これでは近寄れない。


「というかそもそも、私の剣じゃあれが精一杯よ。攻撃できても致命傷は与えられないわ」


『じゃあ、トドメはわたしに、いや、エイナのお尻とおなかにかかっているわけだね。さて、クマはともかく、エイナは耐えられるかな?』


「他人事のように言ってくれるじゃない。いいわよ、覚悟は出来てる」


 下着を下ろして、スカートを捲り上げる。お尻をクマに向け、照準を合わせた。


『漏らす覚悟?』


。さあいつでも行けるわよ!」


『ずいぶんと頼もしくなっちゃって。それじゃあいくよ、せーのっ、サンダースピアー(返し付き)!!』


 グリュリュリュ!!


「んぅぅぅんお!?んおっ?んんおっ!?」


 この間の土魔法の2倍ほどの腹痛が私を襲う。それが波のように都合3回やってきた。ゴリゴリという音がおなかの中から響いてくる。苦しい。


 だけど、以前よりも短い時間で放出を終えることが出来た。私は歯を食いしばって余韻に耐える。ここで油断したらダメだ。口元から涎が垂れて地面を染める。


「んんんんんんんっ!!!」


 ズゥゥゥン……。


『命中だ、クマは倒れたよ、やったねエイナ!エイナ?』


 クマが倒れる音を聞いて、安心した私も後を追うように崩れ落ちる。


「みな、さい……耐え切った、わよ……」


 もう動けない。指先は動く。だけど腰から下は無理だ。少しでも力を加えたら、余計なところの筋肉が反応してしまう気がする。


『エイナ、クマは倒したけれど、本命のウルフがまだだよ。さあ立ち上がって!こんなところで倒れてたらウルフの餌食になってしまうよ』


「わ、かって、る、わよ。でも広がったままで、今動いたら……」


 ガサガサ、草をかき分ける音が聞こえる。


『不味いよエイナ、ウルフが全部で3匹だ!わたしが時間を稼ぐから頑張って!つdryrklんっぃjぷおkyf』


 立たなきゃ、立ち上がって剣を取って、ウルフを倒さないと。でも私の足は動かない、動かせない。動いたら、未だ閉じない砲門から、空薬莢が溢れてしまう。


『dfgbんjき。……もう限界だ、エイナ、わたしを恨んでくれてもいいからね。出来るだけ必要最小限の威力で3発撃つよ、歯を食いしばって』


「や、め……」


『威力は絞るけどホーミング性能を付与するから……計算通りなら耐えられるはずっ!行くよ!サンダーアロー(3連)!!!』


 ギュ、ギュ、ギュー。


「のっ、ぅおっ、ふぉっ」


 そこで私の意識は途切れた。






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