第5話 ゴブリン討伐しよう
寄生虫との便談義で頭がおかしくなるのを回避するため、急いで冒険者ギルドに向かった。
ギルドに到着し、くたびれて傾いたスイングドアを押して中に入る。入って右側には酒場があり大きめのテーブルが何脚か設置されている。左側には依頼情報が記載された紙が何枚も掲示されている。正面には長いカウンターがあり、窓口で受付嬢たちが暇そうにしている。
まずは薬草を納品して依頼を片付けよう。その流れで拾った8体分の魔石も処理だ。持っていても荷物になるからお金に変えてしまった方が良い。空いている窓口を選んで受付嬢に声をかける。
「依頼品の薬草を納品に来たわ、後ついでに魔石も買取をお願い」
報酬を受け取って、窓口を後にする。次は依頼情報を確認しよう。
依頼情報を眺める。ゴブリンの討伐依頼、オークの討伐依頼、ウルフの駆除。薬草の採取依頼はない。群れになっている魔物の討伐系依頼ばかりだ。村娘に毛の生えた程度の私じゃ、今は返り討ちにあってしまうだろう。大人しくはぐれの魔物を狩っておくべきだろうか……。
(でもはぐれの魔物だって私には……)
『ねえ、あれなんて良いんじゃない。左上のやつ、ゴブリンの討伐依頼』
寄生虫が口で示した依頼を確認してみる。そこにはゴブリンの討伐依頼が掲示されていた。
「……これは10匹以上の群れを討伐しなきゃいけない。今の私には荷が重いわ」
『今のエイナだからだよ、いずれは戦わなきゃいけない相手だし、今なら危なくなってもわたしがフォローしてあげられる。これにしようよ』
確かにその通りなのだけれど、いざという時にお尻頼りで依頼を選ぶのは抵抗がある。わたしはこいつに頼らずに強くなりたい。でも路銀も少なくなってきたし、比較的割のいいこの依頼をこなせば大分楽にはなる……
「……分かった、これにするわ。でも出来る限り私1人で対応するわよ」
依頼票を手に取りながらおなかに向かって返事を返す。
『了解。わたしはあくまでもフォローに徹するよ』
そうと決まれば、さっさとゴブリンの出没している場所へ急ごう。ここからそう遠くないところで群れの姿が発見されているようだ。
窓口に依頼票を提出して受注する。受付嬢に心配そうな顔をされた上、1人で受けるのかと問われる。私が不安そうな顔をするわけにはいかない。1人だが問題ないと一言返して、私はギルドを後にした。もちろん、換えの下着は持っていく。何があるかは分からないから。念のため、念のためだ。
⬛︎
町から歩いて5キロ程の場所、道から少しだけ外れた森の中で、ゴブリンを探して周囲の気配を伺う。辺りは草木が生い茂っていて、時折小動物が動いてガサガサと音がする。頭上からは謎の鳥の鳴き声が聞こえ、私の不安を煽る。
『ゴブリンっていうのはどういう魔物なの?』
寄生虫が今更にそんな疑問を投げかける。
「そんなことも知らずに私にこの依頼を勧めたの?」
『前世の知識で、何となく弱い魔物だってことは知ってるんだよ。知識と実状とのすり合わせをしたくてね』
そういうことか。弱い魔物。それならあながち間違ってもいない。
「ゴブリンは身長100センチくらいで、緑色の醜悪な姿をした、二足歩行の人型の魔物よ。1体1体は弱いけれど、群れを作って村を襲い、畑や食糧庫を襲う。人種に危害を加えるから、大きな群れになる前に積極的に討伐しなければならないわね」
『大体わたしの認識と一緒だね。エイナなら相手が1体なら簡単に倒せるんでしょ?』
故郷の村では、12歳になった時に子供たちが狩りを教えられる。狩の対象はウサギや鳥などの小動物だ。もちろん私も教えられた。ゴブリンもウサギも、一撃で倒せることに変わりはない。人間に対して攻撃的かどうかという違いだけだ。それだけなんだ。
「相手が2、3体程度なら倒せると思うけど、四方八方を囲まれるとかなり苦しくなると思う。弱くても数が集まれば手強い相手になるわね」
『じゃあ囲まれないように立ち回って、数を減らしていけばいいね。安心したよ』
「そのつもりよ、心配しなくてもあんたの出番はないわ」
『あ、呼び方が貴方からあんたに変わったね。少しずつ仲良くなれているみたいで嬉しいな』
「……寄生虫のくせに目ざといわね、あんたなんてその内に、虫下しの薬でやっつけてあげるんだから」
『もしそんなことをしたら、わたしは悲鳴を上げながら苦しんで、おなかの中をのたうち回るだろうね。多分エイナも道連れで悲惨な目に合うだろうからやめておいた方がいいよ』
「……」
『具体的に言うと、おなかが痛くなってエイナは必死で耐えるけど、ちょっとずつ決壊していろんなものがお尻から出てくる。最後には汚物まみれで気を失って、エイナのお尻からわたしの体がはみ出た状態で倒れる。誰かにその姿を見られることを想像してみて。普通は嫌だと思うけど、もしエイナがそういうのが好きな変態ならやればいいと思うよ』
「嫌に決まってるじゃない!わたしを変態扱いしないで!」
『声が大きいよ。あ、ほらゴブリンが寄ってきたみたいだよ。奇襲のチャンスを逃しちゃったじゃん』
寄生虫に言われて、慌てて周囲を見回すと、目の前の茂みから続々とゴブリンたちが姿を現していく。1、2…6、7、どんどん数が増えていく。
気づけば目の前には全部で12体のゴブリンがいて、その全てがニヤニヤと下品な笑みを浮かべて私を眺めていた。
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