第4話 音姫程度で私の爆音が防げるとでも思っていたのか?

 宿で下着を履き替えてから、私は頭を悩ませ、おなかを痛めていた。寄生虫に弄られたわけではない。単純に日々の生理現象として催してきて、今はそれに耐えていた。


 ギュルギュル。


 歯を噛み締めて耐えても、すぐにぶり返してやってくる鈍い痛みに頬が歪む。ベッドの上の握りしめたシーツが汗で湿っている。


『悪いとは思っているし、同情もするよ。でも生理現象だしどうしようもないじゃん。わたしが抑えるのにも限度があるし、いつかは向き合わないといけない問題だよ』


「ちょっと黙って、今方法を考えてるから」


 相手が寄生虫とはいえ、している姿を自分以外の誰かに見られ、聞かれるなんて嫌だ。これでも私は女の子なのに、どうして神様はこんな試練を私に与えるのだろうか。こんなのは勇者の試練だけで十分なのに。


 額から汗が一雫伝って、鼻の頭で垂れる、プツンと千切れて、床に落ちた。


 ギュルギュルギュル。


『なんなら、している間大声で歌ってあげようか。エイナにしか聞こえないからどんなに煩くても周りの迷惑にはならないよ。わたしが知っている歌だと、これかな。久しぶり〜久しぶり〜3日ぶりだねぶ〜りぶり♪』


「覚えてろ……必ずこの手であんたは殺してやる……」


 ギュギュギュ、ギュギュ、ギュッ。ゴッ。


 クソッ、限界だ。もういい……楽になろう……。


 私はトイレへと駆け込んだ。




 ♪♪♪




『そんなに落ち込まないでよ、介護とか病気になって動けなくなったら人に聞かれるのも見られるのも普通だし、ちっちゃい頃は拭いて貰ってたと思えばさ』


「もうお嫁にいけない……」


『わたし小学校の時に夏休みの自由研究でペットの犬のうんちを調べたことがあってね、毎日餌を微妙に変えながら、ブリストルスケールっていう基準でうんちを観察してたんだけど、それで言うと今日のは少し硬めだったから、もうちょっと水分を多めに取ったりした方が良いと思うよ。腹筋は鍛えているだろうから心配はないと思うけど、うんちが固くなると便秘にもなりやすいからね。それにストレスも硬化に繋がるから、溜まらないようにわたしにも手伝えることがあれば良いんだけど』


「あんたのせいで私はストレスで便が石になりそうよ」


『その時はわたしが中で砕いて柔らかくしてあげるね、これからは毎日安心してうんちできるよ』


 もういいです、何を言っても無駄みたいだし、他人に見られたくないものナンバーワンはこいつに見られてしまった。諦めよう。前向きに考えれば、今後はこいつが急な便意をある程度抑えることが出来るし、突然の脱糞の恐怖に怯えることもなくなる。こいつと仲良くしている限り私は漏らさない。もう一生私は漏らさない。はは、嬉しくて涙が出ちゃうな。


「……冒険者ギルドに行くわよ、魔石を売って薬草の納品をしなくちゃいけないわ」


『おー冒険者だね、勇者候補のエイナには冒険者の尻合い、あ違う、知り合いとかいるの?』


「そんなのいないわ、誰も私に関わろうとしないもの。勇者候補は言うなれば国がバックについているから、面倒を嫌う冒険者にとっては、私みたいなただの村娘じゃ関わるだけ損だもの。他の候補は、大商人の息子だったり、貴族の末妹だったりらしいから、支援してその結果勇者になればおこぼれも期待できるんだろうけど、私なんて最初から誰にも期待されてないから見向きもされないし、みんなその内死ぬだろうって思っているんでしょうね」


 冒険者について何も知らなかった私は、故郷の近くのギルドで色々と聞いて回った。けれど、誰もまともに相手をしてくれなかった。既にみんなが私を勇者候補だと知っていたからだ。私も最初は持て囃されたりするのかなと思っていたけれど、そんなことは無かった。ハズレの勇者候補には誰も近寄って来ないのだ。離れたところからヒソヒソと私の話をする先輩冒険者たちに嫌気がして、私はその街を離れた。


 仕方なしに故郷から距離を置いたこの町に来たけれど、ここでも塩対応は変わらなかった。仲間や支援者なんて夢のまた夢だ。


「結局私は1人で試練を乗り越えるしかないのよ、初代勇者が1人で魔王を倒したようにね」


『大変だったんだね……エイナはよく頑張っているよ』


「あんたに何が分かるって言うのよ。寄生虫のくせに」


『分かるよ、エイナが苦労しているのはね、寄生虫だから……だって硬かったもん』


「ああああああ!!もういやぁああああ!!」


 こいつと話していると話題が全て便の話になってしまう!このままでは私はおかしくなってしまう!


 さっさとギルドで用事を済ませてついでに依頼も探そう。頭を使わずに体を動かせば少しは気も休まるはずだ。


 私は冒険者ギルドへと向かった。



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