第2話 用を足した後に拭いた紙を目視確認しないと安心してパンツ履けない

 魔物が消え去って魔石だけが残り、静寂を取り戻した森の中で、私はこの後どう行動するべきか考えを巡らせていた。


『サナダムシのサナです。これからよろしくね』


 お尻に風が当たってスースーする。落ち着かない。早くどうにかしないと私の尊厳が失われる。


『ねえ、聞こえてるんでしょ?無視しないでよ』


 ひとまずは街へ戻って、宿に置いてある換えの下着に着替えよう。穴の空いた下着で外を歩き回るなんて恥ずかしすぎて耐えられない。


『死にそうになっていたのを助けてあげたのにその態度はないんじゃない?そっちがその気ならイタズラしちゃうぞ?そーれっ!』


 キュルル。


「んぁっ?」


 急激におなかの調子が悪くなる。中で何かが前後に動いている。突如襲ってきた刺激に耐えられずに膝を地につき、地面に両手をついてうずくまる。


「やっ、め……」


『やっと返事してくれたね、うん、やめてあげるからお話ししようよ』


 言うと同時におなかの不調が少しずつ治っていく。この声の主が私のおなかに何か細工をして、調子を操られているようだ。顔も知らない何者かに、私の尊厳が握られていると悟ってしまい、魔物に囲まれた時以上の絶望が私を襲う。この先私は、一体どうなってしまうのだろうか。


『安心して、私はあなたの味方だよ』


「私を脅しておきながらどの口が言うのよ、うっ……」


 この先のことを考えて、見通しの暗さに涙が込み上げてきた。


『だってそうしないと話を聞いてくれないじゃん、わたしはエイナルと仲良くなりたいんだよ』


「……なんで私の名前を知っているの?そもそもなんなの貴方は?どこにいるのよ!?なんで魔物を倒せたの!?」


『私はあなたのおなかの中にいるの』


「そんな、嘘でしょ……い、いやぁぁぁ!!」


『落ち着いて、これからのことをお話ししようよ、そこの切り株にでも座ってさ』


 どうして切り株が見えているんだ、私の中にいるくせに。それに今は座れない、粗相をしてしまった上にまだ拭くことが出来ていない。このまま座ったらスカートについてしまう。


 私が躊躇っていることに気づいたのか、声の主が話しかけてくる。


『もしかして、漏らしたと思ってるの?大丈夫だよ、わたしが食い止めておいてあげたから安心して座っていいよ』


 そうは言われても信用できるはずがない、少し抵抗があるけれど、ハンカチを取り出してお尻に当てて確認する。……良かった、こいつの言う通りなんとか最後の一線は超えなかったようだ。


『はい、問題ないのが分かったところで、腰を落ち着けて話し合おう。あ、エイナルだと呼びづらいから、エイナって呼ぶね、わたしはサナダムシのサナです。あらためてよろしく』


 言う通りにするのは癪だけれど、いつまでもこの意味不明な状況のままなのも良くない。ひとまず切り株に座って、このサナとかいうやつと話をするしかないだろう。抵抗して機嫌を損ねて、またおなかを弄られたら敵わない。


「……よろしく」


『うん、まずはなんでも聞きたいことがあれば聞いて。わたしに答えられることがあれば教えてあげるから』


「色々と聞きたいことはあるけれど、まずは貴方が何者で、なんの目的で私を助け、なんで私の中にいるのかを教えて」


 そして、どうやったら出ていってくれるのかも。


『途中途中で疑問に思うこともあるだろうけど、取り敢えず一通り聞いてね。まず、わたしは神様の使徒っていうやつらしいよ。わたしの前世は真田さなだ 左薙さなって名前の15歳の女の子だったんだけど、事故で死んじゃって、気づいたら神様に命令されて、エイナのおなかの中にいたサナダムシに意識が移ってたの』


 神の使徒?神様の命令で私の中にいるの?サナダムシって、確か寄生虫よね?うげぇ、元々私の中にそんなのがいたってこと?気持ち悪っ!!


『目的は、エイナが勇者になるのを補佐して、わたしも人間になること。これは神様の命令で、どうやらわたしには逆らえないみたい。魔法が使えないエイナの代わりに魔法を使うのがわたしの仕事だよ』


 神様が私を支援している?こんな村娘上がりを助けて何をしたいんだろう。助けて貰ったのはありがたいけれど、別のやり方はなかったのだろうか。人間の使徒を差し向けてくれたって良かったのに。


『エイナの中にいるのは、あの絶体絶命の状態で1番近くにいた生き物がサナダムシだったから。これに関してはわたしも不満だよ、女子中学生がいきなり寄生虫なんて酷すぎるよね』


 神様の理不尽な命令でわたしのおなかに突っ込まれたこいつは確かに気の毒だけれど、さっさと出ていって欲しい。寄生虫がおなかの中にいるなんてゾワゾワする。


「大体分かったわ、貴方に助けて貰ったことには感謝してる。あのままだったら私は間違いなく死んでいたからね」


『そう言って貰えるのは嬉しいよ、結構頑張ったからね』


「でも、やっぱり寄生虫が体の中にいるのは気持ち悪いから、さっさと出ていってくれる?」


『そうしてあげたいのは山々だけど、神様の命令だから反抗できないんだよ、それに外に出たらわたしは死んじゃうんだ。せっかく転生したんだから頑張って人間になって魔法チートしたいんだよ』


「……絶対に追い出してやる」


『エイナには同じ元人間の女の子として同情するよ。でもわたしの気持ちも考えて欲しいな、わたしは今エイナのうんちまみれなんだからね!しかもこれがわたしのご飯なんだよ!未消化のとうもろこしやえのきが!』


 悪夢だ、どうしてこうなった。





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 2日に1回くらいの更新予定です。

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おなかの中のサナダムシが言うには、どうやら私は勇者になれるらしい スケキヨに輪投げ @meganesuki-

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