第5話 ハンターたち

 

「吹基レントじゃねぇか」


 男たちのなかで特に背の高い大男が立ち止まった。

 タンクトップを着ている男の腕には大小の傷跡がたくさんあった。


刃銀はぎんか……わざわざ挨拶にでもきたのか」

「その気色悪りぃ赤の眼帯。自意識過剰で目立ちてぇのか?」

「お前も相変わらず傷だらけだな。似合わないから、料理教室に通うのはやめたほうがいい」

「アア!?」


 刃銀と呼ばれた男はレントの首根っこを掴んだ。


「ちょっと、公務執行妨害で逮捕するわよ!」

「ひっこんでろ、ロリコン野郎」


 イラついている刃銀に向かって、マルミは眉間にシワを寄せる。


「は?! 私はロリなだけで、『コン』ではないし、『野郎』でもないし!」


 と刃銀をにらんだが、それに気付かれることはなかった。

 

「なんでも、片目潰れたからって、『自衛隊』に入ったって?」

「……」

「ハンターが国の犬に成り下がるなんて、傑作だよな! ハハハッ。俺をコケにしてきたあの伝説ハンターが、ダンジョン嗅ぎまわって逃げるだけの犬に……ハハハハ」


 ダンジョンを探検する者たちには、様々な職業があった。

 最も多いのは、単純に神器を追い求めるハンター。危険を省みず、凶悪なモンスターを倒しながら、最深部にあるとされる神器を持ち帰ることを最大の目的とする。


 当然、神器は莫大な金を生むが、倒したモンスターの部位も高値で売れた。まさにハンターは一攫千金を夢見る職業だった。


 一方で、自衛隊カイタイ班はダンジョン内部の地形や危険なモンスターの生息域を記録することが目的だった。彼らがモンスターと戦う必要はなく、ほとんどはハンターより劣る能力者だった。


 刃銀はレントを解放すると、もうひとりの男がレントに近寄ってくる。

 さきほどまで声を張り上げていた刺青の男だ。


「え、こいつ自衛隊なんすか! モンスターの糞とか嗅ぎまわってる奴っスよね。ダッサ! モンスター怖くて戦えなくなっちゃったの? ハハハッ」


 男の嘲笑を聞いて、刃銀はピタリと動きを止める。


「オイ!」

「え?」


 ボッと衣擦れの音がすると、若い男の脇腹に刃銀の拳がめり込んでいた。

 男は床に膝をついて四つん這いになる。


「ゴホッ! おええ……っ」


 顔は真っ青になり、額に汗がにじんだ。


「ちょっと! ここでケンカしないで!」


 マルミの声をまた無視して、刃銀は男を見下ろす。


「テメェみたいな青二才がイジってんじゃねぇぞ。レントをイジれるのは俺だけだ」


 顔を上げた刺青の男に、刃銀は手を見せつける。みるみるうちに肌が光沢を帯びて、指の一本一本が鋭利なメスのように輝いた。

 それを見ていたキブは、刃銀が超人的な能力を持っている人間だと理解した。


「す、すみません……」


 男が土下座したことを見届けて、刃銀は待機室から出ていく。


「ハンターは諦めて早く自衛隊に入隊したほうがいい。マップの作り方は通信教育で学べるぞ」


 レントの言葉に反論する気力もなかったのか、男は腹を押さえて刃銀のあとを追っていった。


 刃銀の部隊が荷物を下ろす間、キブはマルミの横で小さくなった。


「ねぇ、マルミさん。ハンターってみんなあんなにおっかないの」

「そうね……。気性は荒いわね。まあ、刃銀は飛び抜けて暴力的だし、アホだけどね!」


 三人はヘリに乗り発進すると、あっという間にヘリポートは小さくなった。


「うわー! すごいすごい! 空を飛んでる!」


 はしゃぎながらキブはガラスに鼻をつけた。


「マルミさん! マルミさん!」


 騒音に負けない大声で、キブはヘリのフロント越しに見えるビル群を指さした。


「大きな建物! 何あれ!?」

「あれは都庁だよ。あそこはトーキョー。日本の首都だよ」


 言葉にならない歓声を上げて、キブの目は輝いた。

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英雄を導く蔑職の探索者〜その職業、蔑まれていますがじつは最強です〜 下昴しん @kaerizakura

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