郷には郷に従い、業は郷に従え

真夏の三ツ星

 真夏の時期に輝く三つ星を見たことがある。普段は冬にしか見られない星座の一部なのだが、あの日の上空では燦々と輝いていた。


 幼少の頃に見たその光景は太陽が通りすがりの衛星に隠れる一生に一度見られ家も分からない天体現象で、家族と一緒にそれを見る予定だった。でもその予定は私が人込みに揉まれている間に破算となり、気付けば誘拐されていて、偶然そこにいた少年と共にその建物から脱出するという予想外の出来事に巻き込まれた。


 その少年は私が作り出した幻覚とかではなく、確かにそこにいて、時には手を引かれ、ある時には狭い箱の中で一緒に閉じ籠り、何とか犯人たちを出し抜き逃走をした。逃走劇の中で森の中に入り、暗がりを抜けて開いた場所に辿り着くころには次の暗がりがき始めていて、私はそこで目にしたのだ。


陽は陰り、隠された夜空から顔を出したその輝きに、強い心酔と心の奥底に影を落とした。


 星の反対側から見れば平凡かもしれないが、ここで彼と見た特別な冬の星々は、大いなる光源によって隠されていたが確かにあった。見えなくとも確かにそこにあるし、そこにいる。その光景は私の価値観を変え、私の心の土壌に撒かれた悩みの種となった。 


 本来、他者を幸せにするはずのその想いは今の私を押し潰し、理不尽にも私を殺そうとしている。

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星願いのアサンブル 真夏のオリオン 冬夜ミア(ふるやミアさん) @396neia

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