帰り道

「夢霧さんって底が見えない人なんだよね。深淵を専門家にしている人間が言うのもなんだけど」


 ジュジュの恐怖と弱音にワタシは「それは違う」と前置きをして、向き直り「あれは、底が見えないんじゃなくて、底が解からないだけだと思う」と別視点を差し向けた。


「底が解からない?どうゆうこと?」


「恐らく、過去の因縁とか苦い経験から自分がどこにいるのか判断がついてなくて、彷徨った結果、足の着いてない心情に呑まれていて、そのことが分かる人間ほど、底なしに見えているんだと、夢霧さんと真剣に喋って理解した」


「ハルっちにはそう見えたの⁉確かに言われてみれば、そうとも解釈できるが……」


 腑に落ちていない様子のジュジュさん。そこで少し解説を加えることにした。


「一万円札を渡されたとき、夢霧さん何を言っていたか思えてる?」

「ごめん覚えてない……」

「覚えてなくても良いわ。それぽい言葉で誤魔化せるから」


「夢霧さん『女の喧嘩は見たくない』的なこといってたんだけど、別の言い方をすると『女同士の喧嘩は見たくない』っていう発言にもきこえるわけだけど、夢霧さんの性格上それはない」


「どうして?」

「根っこで他人のためを想っているから」

「それだけの理由?」


「下に見てるけど、性格には生まれつき決まっているレンズがあって、同じものをみても考え方が違うのよ。もちろん、環境や経験から内容は異なるけど、そのレンズ的影響は大きい。ひとつジュジュさんに仕掛けるけど、頑固な男性を見てどう思う?」


「そりゃ、もう少し柔軟な頭を持って、世間に目を向けて欲しいとは思うね」

「それじゃ、そんな人彼氏に――」

「した――」

「「くない!」」

「って、なんでわかったの?」

 

 分かりやすく驚いてくれたジュジュさんをさらに詰めるように追加の質問をした。


「流行に敏感で、みんなが言っていることには従うが、身内の発言はあまり聞こうとしない。型が外れ情報は受け付けないが、行いは型外れ。この話に覚えはない?」

「……それ、うちのこと言ってる?」


「あくまで性格レンズ上の話よ。ジュジュさんのことを言っているわけじゃない。大体五種類あって、価値観形成に大きく関与するから自然とその傾向が出るし、さっきいった行動を取る時が一番ラクと思ったんじゃない?」


「確かにそういう行動をしがちでラクだ」

「話を戻すけど、夢霧さんにも同様、性格レンズが人に向けられるのが基本みたいだから、『女』単体で言うのは特定の女性しかも、特別な人という仮説がでる」

「ああ、それって!」

「そう、夢霧さんの『お嫁さん』と何かあったんだと思う。上位者関係で」

「最後の発言はピンと来てないけど、奥さんと何かあった事だけは理解した」


「内容としてはそれだけで充分。男っていう生き物は顔がブサイクでも敵でも、『女性』の言動を一生の勲章のように保持する生き物だから。何かしらかの理由で、夫婦解消せざる負えない事情があって、愛する人と離れ離れ、その原因が今の夢霧さんを動かしている原動力になっているのかもしれない」


「子供とも離れ離れになるような理由で、ただの顔見知りのハルっちに任せたいこと……それくらい夢霧さん切迫したような状況なのかね」

「その可能性は高いわ。念話で良いのかしら?それの傍受が掛かっていたから」

「え⁉何!うちらハメられていたの?ただ単に現世でやる念話を知らなかったからやらなかったんじゃなくて!」

「そんなところ」

「…………ぼろ雑巾みたいの人だからって舐めてたわ」

「今後気を付けることね」

「ああ~数日で先輩マウントが取れなくなった~」

「そういうのはあまり口にしない方がいいよ。ワタシは赦すけど」


 ここで一度話を切り、今後の予定を話しはじめた。


「帰ってから一度ミザのところに行って、今回会ったことを話すわ。その次いでに観測もしてくる」

「息子さんの件は?」

「戻った時間の都合が良ければ、行ってみる」

「そう、ならうちも付いて行っていい?ボディーガードとして」

「別にいいけど、結構退屈すると思うよ」

「夜道とか怖くないのハルっち?」

「認識はできないけど、ワタシには何か加護が付いてるみたいでそういうのには出くわさないから大して……怖くないかな」

「そうなんだ……でも、分かっているよね?もう既に不思議の国に入国しているくらいは」

「改めた口頭で言われると、痛いところがあるな……。とりあえずあとの話は本部でやりましょ。傍受してくる存在もいるみたいだし」

「ハルっちも痛いところを突きますな。確かにその方が安全だな」


 こうして双方は拠点に戻り、個人的にも今後のことを考え始めた。

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