ラブコメディの成れの果て-7
「あ、おかえ…………ってみかみん!? どうしたの?」
どうにか依途くんの家に辿り着く。夜海さんがドアを開けてくれた。
「尻尾巻いて逃げてきたのさ」
リビングのソファに依途くんを下ろし、その場に座り込む。ベッドの足掛けに背を預けた。
「はぁ…………」
「まさか……異界から」
「うん。依途くんを連れてどうにか逃げ帰ってきたけど……その彼が目を覚まさない」
「えっ!?」
「死んでるわけじゃない。けれど意識も戻らない」
「……何か出来ることはないの」
首を振る。あの化物に精神干渉をされたことだけは予測できるけど…………かといって、対処は分からない。祈るくらいしかできなかった。
「どうして……急にそんな」
「突然、規模の大きい異界が発生したんだ。突入したら見たこともないタイプがいてね、このざまさ」
「じゃ、じゃあ次はどうなるの。警察? 自衛隊?」
「現代兵器での撃破は不可能だ。軍隊ではあれを倒せない」
「そんなの、どうすれば…………」
「ぼくと依途くんがどうにかする。でなきゃ、文明が終わるだけさ」
依途くんの寝顔を見つめる。何だか幸せそうな表情に見えて気が抜けた。
「今は異界は閉じてるけれど…………政府に撤退報告をした。もうそろそろ自衛隊が県外への避難誘導を行うだろう。夜海ちゃんも早く逃げるといい」
「…………わ、わたしも」
「戦うって?」
「うん……」
「ぼくと依途くんの勝てない相手にきみは邪魔だ。逃げろ」
努めて低い声で威圧する。あまり得意ではなかった。
「…………」
「夜海ちゃん。この数週間、楽しかったよ」
「え?」
「まぁ腹立つこともあったけど。楽しかった。そういうことにしとく」
「うん」
「だいたい夜海ちゃんのおかげだったから。ありがとう」
…………もしこの子がいなかったら、ぼくはもっとゆっくり依途くんに近付こうとしただろう。心に隠した傷ももっと気付かずに過ごしていただろう。
「ほんとはこのラブコメもどきをもうちょっとやってたかったんだけど。……まぁ、無理やり続けてたんだ。仕方ないのかな」
「なにそれ、まるでもう終わっちゃうみたいに……」
確かに、そういう言い方だった。自分でも気が付いていなかった。
「ぼくはね。この3年間、ずっと依途くんのことが好きだったけど。告白なんて出来なかったんだ」
「ん…………」
「だから驚いたよ。会って半月も経ってないきみが依途くんに告白した時は」
「う…………恨みっこなしだよって言ったじゃん」
「違う。依途くんを幸せにできるのは、多分きみなんだ」
夜海ちゃんが口をあんぐりと開けている。そんなに驚くことだろうか。
「ぼくには3年も出来なかったことが、きみには出来た」
「そうかな……」
「全てが終わった後、作戦を完遂するのは……依途くんを救うのはきみなんだ。
ぼくは自分の出来ることをする。きみもいつか出来ることをするために早く逃げて欲しい」
唇を噛んで俯いている。多分自分が同じ立場でもそうしただろう。それでも彼女にしか依途くんが救えないのは事実だ。
「いやだ」
「夜海ちゃん。頼むよ、依途くんのためなんだ」
「わたしが役に立たないから逃げろって言うならそうする。でも、みかみんが帰ってこないのは絶対だめ」
「………………」
「約束して。帰ってくるって。あきらっちのためだけじゃなくて、わたしのために」
つい、笑ってしまった。
「ああ、誓おう。ぼくは帰ってくる」
それから暫くして、夜海ちゃんが玄関を出ていった。気休め程度に銃を渡しておいたけど……自衛隊も避難誘導を始めたらしい。
依途くんが家を出るときに遺していたらしい書き置きには『直ぐに帰ります』とあった。その上に『さっさとして下さい』と書き足されている。
午後11時50分。夜が更ける。日付が変わる。
眠ったままの依途くんはあまりに安らかな顔をしていた。
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