第4話
「やばいのしか思いつかないけど、どうする?」
「なんやねん、とりあえず言ってみぃや」
その無謀な作戦に、変な笑いが込み上げてきてニヤニヤしながらそう聞いてしまう。
ドン引きする隅田にそう言われ、もうどうにでもなれと口を開いた。
「ギャグテイストだけど、目を血走らせながら音楽を流せってあいつに迫るんだ」
「結局脅すって事か?」
「ヤバい奴らだと思わせるんだ。じゃないと死にに行く奴らへの鎮魂歌の展開になる」
「そんなんで変わってまうんか……」
「しかもこの作戦をやるなら、俺たちは一番前を行かなきゃならない。戦場を圧倒的なギャグテイストに変えなきゃならないんだ」
そう言うと、流石の隅田も黙ってしまった。
こんな馬鹿げてる神頼みの作戦、普通なら聞いた瞬間に却下されるのが当たり前だ。
悩んでいるという時点で、俺たちは既に頭がおかしくなっているのだろうと感じる。
「……やろう」
中島がまさかの言葉を言い、俺たちは耳を疑った。
「……ほんまに?」
「うん、じゃなきゃどうせ死ぬよ。僕ら元ニートなのに前線押し上げるとか無理に決まってんじゃん」
いつもの中島とは違い、饒舌にハキハキと喋るその内容はに反論はできない。
突撃命令が下ったのは精鋭でもなんでもない日本から来たニートの部隊、そして後続に米軍が続くらしい。
俺らが弾丸を消費させるための捨て駒なのは、すでに理解していた。
「ハァ……よし、準備しよう」
「やるしかねぇか……」
不可能を可能にする為には、どれだけ馬鹿げた作戦でも腹を括り本気でやるしかない。
少しでも目隠しを作るためにとスモークグレネードをかき集め、ドン引きさせるためにヘルメットの左右に蝋燭を固定させて火を灯し、顔にドーランを塗りたくった。
「よし、行くか」
「アハハハハハッ、お前ら顔面えらい事なってるで」
顔を合わせると、隅田がツボに入り、その笑い声につられて、説得に成功した同じ格好をしたニート全員が声をあげて笑う。
既に他の兵士をドン引きさせている手応えを実感し、スピーカーを操作する兵士の元に向かった。
「なんだお前ら、どうした?」
「前線を押し上げる間、この音楽を流して下さい」
「はぁ?そんな事出来るわけないだろう」
中島のお願いは一蹴され、相手にもしてもらえない。
どうやら狂気が足りないようだ、俺たちは目を合わせ、打ち合わせ通りに行くぞと頷きあう。
「これを!! 流して下さい!!!」
「「「これを!! 流してください!!!」」」
「お願いします!!!」
「「「お願いします!!!」」」
「わ、わかったわかった……勘弁してくれよ……」
訓練でやった復唱が、こんな所で役に立つとは思わなかった。
無事に交渉は成立し、俺たちは突撃開始地点へと集まる。
「ほなお前ら、準備は「チュンッ」
声の通る隅田が音頭を取ろうとした時、銃弾が塀の上ギリギリを通過して言葉が止まる。
「チッ……もう一回! ほなお前ら「チュンッ」
「「「…………」」」
「ほn「チュンッ」
隅田が話出そうとする度に掠める銃弾に何度も言葉を遮られ、彼のおでこには怒りから血管が浮かんでくる。
そして何を思ったか隅田はカゴに集めたスモークグレネードを無言で次々と投げ始めた。
ブシューという音を立ててあっという間に向こう側が見えなくなると、隅田は大きく息を吸い込み叫んだ。
「流せえぇぇぇぇ!!!!」
スピーカー担当が慌てて音楽を流し始めると、中島が最初にダウンロードしたバカみたいな音楽が戦場を包んだ。
「もう知らん! お前ら突っ込めエエェぇぇ!!!」
隅田の号令で、ニートが対岸へと走り出す。
煙を抜けた先の敵兵は、急に現れたバケモノのような俺たちに気圧されてほとんどがすぐに銃を離して両手を上げる。
「うおおおぉぉぉぉおおお!!!」
自分の声かどうかすらわからない雄叫びを出しながら、まだ銃を向けてくる敵を撃ちまくる。
戦場を走り回り冷静になった頃には、俺たちは敵のエリア一角を制圧し終わっていた。
死体の転がる道を戻ると、同じ格好の兵士が集まっている場所を見つけ、そこへと向かう。
俺に気づいた誰かが走り込んで、タックルするかのように飛びついてきた。
「良かった……坂本くん、全員生きてるよ……」
中島だとわかるその声の持ち主が顔を上げるが、汗と涙によって流れたドーランでお化けみたいになっている。
生きて再開できた事を喜び合っていると集団の奥から更に2人、隅田と佐藤も飛び出してきた。
「坂本!!! 生きてたんか!!!!」
「死んだかと思ったぜ!!!」
4人で作戦の成功を分かち合う。
ここから見えるニート達も大きな怪我はなく、繊維を喪失した敵兵たちは米兵に捕えられ、連れられて行った。
数時間後、捕虜の整理や新たな前線の構築が終わり、前線をこじ開けた俺たちは一度キャンプに帰って良いとの指示を受けた。
キャンプに戻った俺たちは互いを称え合い、ジュースで祝杯をあげた。
陽が落ちた後には、帰ってきた米兵たちからの感謝の印として食事が振る舞われ、ニート達は今まで経験してこなかった陽キャのようなパーティを楽しんでいる。
「おーい、飲んでるか!?」
「酒みたいに言うなよ」
相変わらず口の回る隅田は、持ち前のコミュ力と食欲で楽しんでいるようだ。
佐藤は酒が無い事に不満そうだが、いつものしかめっつらも今日はなんだか優しくなっているような気がする。
「あー食った食った……こんだけやっても俺ら、日本に帰れたりはせんのやろなぁ」
「……だろうな」
騒ぐニート達を見つめながらボーッとしていると、隅田が誰もが思っている事を口にした。
俺たちが捨て駒として連れてこられた事は突撃命令が出た時点で理解している。
捨て駒としては十分すぎる働きをしたという自負はあるが、この先停滞する戦線があるならそこでまた俺たちは捨て駒として使われるのだろう。
そんな事を考えながら見上げた夜空は、分厚い雲に覆われていた。
翌朝いつものように戦地へと向かう準備を進めていると、テントの外がなんだか騒がしい。
外に出ると他の小隊のニート達が集まり、歓声を上げていた。
「どうしたんだ?」
近くにいた1人を捕まえ尋ねると、そいつは嬉しそうな顔で口を開いた。
「俺たち帰れるんだって!! 戦果が認められたんだよ!!!」
信じられないその言葉に理解は追いつかないが、自然と涙が溢れ出した。
たった数日の出来事が、随分長かったように感じる。
荷物をまとめる作業は喜びからか一瞬で終わり、全員で空港へと向かう。
初日に見た時には驚いた崩れた建物を見て、今じゃ何とも思わない事に戦争の恐ろしさを感じた。
空港に到着し、日本からここへ来る時に乗せられた輸送機が見えると、ニート達はそれに向けて走り出す。
自分も同じように走り、並んでいる輸送機の一つに乗ろうとすると、後ろから腕を掴まれた。
「これじゃなくてあっちに乗ろう」
「なんでだ?」
俺の腕を掴み、そう言ったのは中島だった。
何かを伝えようとする中島は、只事じゃないんだろうなという目をしている。
「……わかった、あっちにするか」
「うん、走ろう!」
中島と他の輸送機へと走ると、隅田と佐藤が2人分の席を確保してくれていて、乗ることが出来た。
みんなで乗りたかったのかと納得して乗り込むと、定員に達したその輸送機は後ろの昇降口をすぐに上げて、滑走路へと進んで行く。
「みんなで乗りたかったならそう言えよ、ビックリしたぞ」
「……いや、そうじゃないんだ」
何か言いた気な中島に続きを聞こうとするが、輸送機が滑走を始めたのでバランスを保つ為に一度会話が止まった。
斜め上を向き、戦地を離れ空へと舞い上がっていく機体が、緊張の糸を解いていくのを感じる。
「なぁ、さっきなんて言おうとしたんだ?」
機体が水平に戻り、安定したところでもう一度中島に声をかけると、険しい顔で口を開いた。
「……空港に向かう道で聞いちゃったんだ」
「……何を?」
「坂本くんの後ろにいた人が……」
「……ん?」
「帰ったら結婚するんだ……って」
徴兵されたニートは、フラグを立てて最前線を生き延びる。 王-wan- @wan525
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