第3話
数時間後、俺たちは別の小隊長の指揮の元、無事にキャンプへと戻る事が出来た。
しかしここで明日の朝まで休息した後は、再編成されてまた最前線へと向かうらしい。
「とりあえず生き延びれて良かったわ」
「もう行きたくないよ……」
テントの中では、命がある事への安堵に胸を撫で下ろす者、そしてまたあの戦地へと向かう事の恐怖が勝ち、ずっと怯えている者等、なかなかカオスな空間になっている。
「……あれ、俺のせいかな」
「気にすんなよ、あんなん仕方ねぇよ」
小隊長のフラグ構築に至る質問をしてしまった俺は、安堵でも恐怖でもなく後悔の気持ちに押しつぶされそうになっていた。
佐藤が励ましてくれるが、フラグ回収が綺麗すぎたあの出来事は、自分が小隊長の運命を決めたようなものだと感じる。
「坂本って小説書いてたんやろ?生き延びるテンプレ展開とか教えてや」
「そんなのしたって生き残れねえよ」
「ほなあれもお前のせいじゃないやろ、気にしすぎやって」
屁理屈じみた隅田の論調に、反論ができなかった。
その言葉に少し救われ、感謝の言葉を伝えようとしても喋り続ける隅田は、「ギャグ展開なら生きれるんちゃうか」などと言いながらコメディ系アニメのBGMを流している。
「う、うるさいよ……もう静かにしてよ……」
俯き塞ぎ込んでいた中島が喋るのをやめない隅田に怒り始めると、隅田は中島の横へ座り小さな声で話しかけ始める。
「中島、生き残りたいやろ?神様にも縋るっていうのは別に悪い事じゃないと思うで」
「ど、どういう意味だよ」
「テンプレ展開の話や、今日死んだのは典型的な悪いフラグを構築した2人だけやろ。なら爆発してもアフロになるだけのアニメの音楽ならそうなるかもしれへんやん」
「そんなわけ……」
「昔の人もアソコの毛をお守りに入れたりしてんで?願掛けなんかした方が得やと思わんか?」
反論しようとしても強引な隅田に押され、ついに中島はその音楽をダウンロードした。
確かに願掛けで少しでも気が楽になるならそれはいい事だろう。
ただ、その音楽は戦場で聞いてみると尚更バカみたいで、気が緩みすぎそうだと言うのは黙っておいた。
あれから三日後、毎日のように日中は戦地で過ごしてきた俺たちは、今日も塀の向こう側へと銃弾を飛ばしている。
ここ数日で変わったのは隣の中島が持つスマホから流れる音楽のレパートリーで、ハリウッドのアクション映画で流れるような物まで時折聞こえてくる。
周りのニート達が次々と銃弾を受けていく中、この音楽の聞いている俺たち4人には銃弾が掠りさえしていない。
「オラァアァァァ!!!」
慣れや思い込みとは怖いものだ。
あんなに怯えていた中島すらも、音楽が流れている間は雄叫びを上げながら銃を乱射している。
「お前キャラ変わりすぎやろ」
「そ、そんな事ないよ」
リロードの間に隅田が中島へツッコむと、中島はか弱い声で反論した。
銃を撃っている間だけキャラの変わる中島はますますギャグ漫画じみてきていて、俺たちも「こいつが死ぬ事はないんだろうな」という気にすらなってくる。
「それにしても、この戦争はいつ終わるんだろうな」
「結局ここが最前線のまま変わらねぇんじゃねえの?」
「こういう事言い出したら映画なら突撃命令とか下るんやろな」
つい口に出てしまったモヤモヤとした感情に、佐藤が同調してくると、隅田がテンプレ展開の話を始める。
4人で笑っていると、俺たちが新たに所属した小隊長が、ニート達に集合をかけた。
小隊長の元に集まり、伝令を伝えられると、ニート達の顔は青ざめる。
まさかとは思うがその通りだ、俺たちに前線を押し上げる命令が下った。
「あかんわ、もう喋らんとこかな」
「クソォッ!! なんなんだここは……」
フラグが全て回収されるこの戦場に、だんだん苛立ちが増してくる。
中島の顔を見ると落ち込むだけではなく、何か考えているようだった。
「中島、どうした?」
「どうにかあのスピーカーで音楽を流せないかなと思って……」
中島の視線の先には、緊急時の命令伝達用の巨大なスピーカーが置いてある。
「お前願掛け信じすぎやろ」
「だって……死んだ人はみんなフラグを立ててたんだ!! 嘘みたいだけど本当なんだよ!!!」
隅田のツッコミに、中島は本気の目をしてそう反論する。
確かに中島はキャンプで行われた葬儀に1人で参加して、そこにいる奴と何か話していた。
本人なりに本気で考えた結論なのだろう、誰もこの目をする人間を頭ごなしに否定する事は出来なかった。
「だからどうにか音楽を流したいんだ! お願い……手伝って欲しい!!!」
日本での訓練期間も含め、ここまで大きな声で頼み事をする中島など見たことがなかった。
それに彼が流す音楽によってかは分からないが、それを聞いていた俺たちもまだ擦り傷すら負っていないのは事実だ。
「めっちゃ本気やん……オッケーわかった、どないする?」
「……あいつ脅して無理矢理流させるか?」
「無理に決まっとるやろ!」
スピーカーの横で待機する見るからにニート出身じゃない兵士を指差して佐藤がそう言うが、すぐに隅田が否定した。
「なぁ坂本、なんかええ案ないか?」
隅田にそう振られ、頭の中で今まで見てきた映画や本、漫画にそういうシーンがないか必死に思い出していく。
一つだけ思いついたソレは、余りにも非現実的なものだった。
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