初夢《shomu》

大場景

海姥

「なにあれ川の中」

ブルンブルンとエンジンを吹かし、私は車を走らせる。

車は石造りの大橋に差し掛かっている。

「ありゃクジラだな」

「あーそーなんだー」

それはそれは大きな川だ。私は横目で橋の外に目をやる。川の中には車とは比にならないほどの全長の影が所狭しと並んでいる。弧を描くクジラの尾びれ。

「クジラ多いな」


橋を抜ける。

道路は急にみすぼらしい作りになり、右に弧を描いている。

「あ」

右折しきれず車は海にダイブする。

車の中にはゴボゴボと水が入る。

私達は急ぎドアを開け、息を大きく吸い込み、命からがら脱出を図る。

あーなんとか助かった。


ざあざあと音を立て満ち引きする波打ち際。

見上げると屋根のある高台があった。

ただ無心にかけ上る。

すると、何やら人影が見える。

子供の猿…?赤ちゃんだろうか。皿に入ったシーチキンを食べていたようだ。目がくりくりとして、可愛らしい。

子猿はゆっくりとこちらへ近づくと、無垢に上目遣いする。興味ありげ、といった様子だ。


後ろから人影が生える。

ふと後ろを振り向く。

しわくちゃの老婆がいた。

「喰うかァ゙……」

いかにも老婆といった様子で、背を丸めながらトストスと奥の台所へ歩みを進める。

「え何か食べるの?」

隣に正座する私の友人は能天気に訊く。(戦犯)

「何いってんの俺等がに決まってるでしょう」

老婆のペースに持っていかれるとまずいと思い、先に話を展開する。

老婆は包丁を抱えてトストスとこちらへ戻ってくる。

「あぁそうだァ゙……」

「わかります」

私はレスバの先手を切る。


中間層からしたらお金がないと思うかもしれない。でも労働業務で疲れたと言う野郎が気に食わんのでしょう。だって、源は


老婆は目線で肯定する。

こちらへ指を指す。


━━━━我らの住処をォ゙、奪うな


消えた。

また部屋を下り、浜を横切る。

石の崖を登り、橋の隅まで歩き、遠くを望む。

雲一つない鮮やかな青のその下。高層ビルが所狭しと並んでいる。


私達は、トンネルの闇の奥に歩みを進めた。

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初夢《shomu》 大場景 @obakedazou

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