第33話 赤嶺祐樹の行方
レストランから出ると、未来達は歩いて人気の少ない
古奈美が男に話を振ると、男の名前は
「俺はその祐樹ーと一緒に食堂の手伝いをしていたんだけど、その時に変な2人組に誘拐されたわけさーそれで気が付いたら祐樹―はいなくなっているわけ。そしたらあれなんか俺にへんな機械を向けて来るもんだから怖くなって偕楽軒って言うレストランまで逃げたわけさー」
「そこでしばらく働いていたんですか?」
「ぃいーなるべくあれなんかに見つからないように厨房の仕事をお願いって言ったよーずっと皿洗いの仕事だけど」
「そうですか。店での仕事は続けてもいいからしばらくは私達の元にいてください」
「わかりましたそうします。実はですねぇこれ、今の時代からタイムスリップしてきたんじゃないかなー?って人を見たんです」
なんと興一が自分達と同じように現代から来た人を見たと話した。
「本当ですか?その人についてもっと詳しく教えてください」
古奈美は興一に質問した。
「はい。確か・・黒いリュクに白いワイシャツを着て自転車に乗っていました。その人は俺も知っている人で、名前は
興一はどうやら2016年からタイムスリップした30代の男と面識があるようだ。
「そうですか。ちなみに、彼とはどういった経緯で知り合ったのですか?」
「そうだねぇー確か・・発表会の劇をやるって俺が呼ばれた時じゃなかったかな?結局、あの子は転勤族だから小学校卒業したら沖縄にはいなかったよーで、今から3年前にまた会ったわけさーそしたら家出した高校生と同棲しているって言うもんだから『ぃえー!あんたがやっているのは誘拐だよ!』って注意したわけさーでもあれ、俺が言うのも全然、聞かなかったよーだぁー結局、こんなだから高校生の子が私の元に逃げてきたよー『避妊しないで性行為してきたから』ってだからもし、亮太ーを見つけてもあんた達が言うの聞かんはずよー」
興一がアルバース財団が亮太を見つけても、言うことを聞かない可能性がある事を話した。
「それはどうしてですか?」
古奈美の質問に興一は「うーん」と考えながら「なんかあれ・・人と言うか沖縄を馬鹿にしている感じがするんだよな・・あぃ!仕事だからもう帰ろうねー」と興一は慌てて店に戻った。
興一の仕事が終わり、店を出ると、未来達が出迎えてくれたので、康徳達と共に路面電車に乗って現在の末吉公園へ行った。
彼が康徳達と行動する理由は仕事先である店の距離から言えば松尾山の方が近いが、帝国機関を恐れての事だった。
拓也達は松尾山にある潜伏地に戻ったが、どうも近くには沖縄警備隊区司令部があり、そこには帝国機関の人間が潜伏している可能性があると考え、松山尋常小学校の西側に場所を移す事になった。未来はそれでも心配であったが、拓也によると城岳に移動した後、末吉公園に移動すると言う。
しかし、拓也達が赤嶺祐樹を見つける事は無かった。
一方その頃、和服に肩掛けカバンを下げた1人の少年が走っていた。
(興一どこにいるの!興一!興一!)
少年は一緒にいた男の名前を心の中で呼んでいた。
(あの人達とは一緒にいたくないよ!興一)
少年は着物を巻くし上げてアスファルトでは無い道を走っていた。
この少年こそ松下古奈美が探していた赤嶺祐樹であり、子ども食堂を運営している興一と共にいた少年だ。
祐樹は2人組の男達に誘拐された後、興一と離れ離れになり、他の子供達と一緒になった。子供達は祐樹と同じ片親で貧困に苦しむ沖縄の子供達であり、中には乳児院や児童養護施設、児童相談所にいる子供達もいた。
彼らは子供達に「ここにいれば新しいお父さんとお母さんの元で暮らせるよ!暮らしたい人!」と呼びかけると、子供達の殆どが「はーい」と言ってついて行ったが、祐樹は「嫌だ!」と言って逃げようとした。
が、彼らは祐樹を捕まえて服を和服に着替えさせ、
夫の武彦は眼鏡に無精髭の生えた無愛想な男であり、妻の
すると向こうからからじを結い、芭蕉布を着た裸足の女性が祐樹の元に駆け付けた。
「あぃ大丈夫やみ?」
女性は祐樹の身体を揺らすと、祐樹は「お腹空いた」と一言呟いた。
「ん?ぃやーや大和人やる?」
女性は琉球諸語で話さない祐樹を本土の人間だと思っていた。祐樹は女性の呼び掛けに応じず、目をつぶった。
「はっ」
「あぃ」
祐樹が目覚めると、そこには先程の女性と東南アジアの人のような顔つきをした彫りの深い細身の老人がいた。
「まーからちゃが?」
女性は祐樹を尋ねるが、祐樹は琉球諸語がわからないので「?」という表情をしていた。
「やっぱり通じないのね。どこから来たの?」
「那覇、那覇から来た」
「那覇!?そこから歩いてきたわけ?」
「ううん。走ってきた」
祐樹の言葉に3人はかなり驚いていた。
「ここはどこですか?」
祐樹が2人にどこかと聞いた。
「豊見城やる」
「てぃみぐしく・・とみしろに来たの?」
「ぃいーそうよここは我那覇って所よ」
「我那覇・・おばさんは何者?」
「私はここで
女性は彼女と同じように芭蕉布を着た堀の深い細身の老人に指を指した。
「俺は祐樹-赤嶺祐樹-」
「あぃ全く沖縄の名前だね。なんでうちなーぐちが話せないの?」
「話せないのは話せない」
「そう。なんでここに来たの?」
女性が祐樹に聞くと、祐樹は涙を浮かべながら話した。
「・・攫われて・・逃げて来た」
「逃げて来た・・誰に攫われたの?」
「・・男の人2人・・うっ、うっ、うわ〜んうわ〜んああああああ」
祐樹は大泣きして女性に抱きついた。
「あいやーまぶやーまぶやー怖かったんだろうね・・」
女性は祐樹の背中を摩った。そういえば自分にも息子が1人いたような気がした。名前は思い出せないが、この子のように体力のある子供だったような気がする。
「あんまー!あんまー!
女性は子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。まさか自分の息子がこの子と同じように攫わたのか?女性は攫われた少年の幻聴を聞きながら泣いている祐樹を抱きしめた。
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