第30話 新情報
「手がかりが無いって事は。その人達はまだ見つかっていないって事?」
未来は康徳の犬にビビりながら指を指すと、康徳が「まぁ・・そういう事になるな。あっ、この犬はラブラドルレトリバーだからあまり吠えないよ」
康徳がペットのくぅを優しく頭を撫でると、くぅはニコニコ喜んでいた。
未来はそんな犬を見ても一歩下がりながら「そうですか」と呟いた。
ケイティが「じゃあその・・見つかっていない3人ってどんな人達ですか?」と質問した。
「そうだな。俺ともう1人の職員が引き取って保護した2人は未来やケイティ達に近い男の子と少し上の女の子だったけど、まだ見つかっていないのは30代の男性と8歳の小学生、それから70代前後の男性かな?でもそのうち2人は帝国機関に誘拐されてこっちに来た可能性が高いみたいだ」
「え?じゃあ誘拐されてきた人達もいるって事ですか?」
康徳の言葉に未来やケイティは驚いていた。
「そうだ」
康徳は重い口調で呟くと、未来達は全員黙っていた。
一方、その頃、大門前通りではワイシャツを着た男がやつれた顔で路面電車から自転車を持って降りて来た。その人物こそ康徳が言っていたまだ見つかっていない30代の男性であり、黒髪短髪、色白で華奢なその容姿は異世界転生ものに登場する主人公そのものであった。
「ふぁ~那覇の中心部に来たって言うけどなんか国際通りじゃないみたいだな」
男はとぼとぼと疲れた足で那覇の街を歩いていた。と言うのも彼は勤務先に向かう途中でタイムスリップして来た。最初に来た時は今より自然が残る街並みに戸惑っていたが、自転車で歩いていくうちに綺麗な海や自然を堪能できたので、彼にとってかなり楽しい旅だった。ついでに写真をスマホで取っていた。しかし、当時の人達からすれば最新の自転車に黒いリュックを背負っている男は何者かという事でジロジロ見られていた。
「なんだよ。なんで俺の事ジロジロ見るんだよ」
男はジロジロ見る当時の芭蕉布に裸足の沖縄の人達が気に入らなかった。男にとってこの時代の沖縄の人は日本人と言うよりどこかの発展途上国の人にしか見えなかった。
(不潔じゃないか・・・・・)
男にはそういう風にしか見えなかった。しかし、建物は東京ほどではないが、他の地方都市顔負けの綺麗な街並みであり、街並み自体は気に入っていた。那覇郵便局はアールデコ調の綺麗な建物で思わず写真を撮りたくなるほどだった。それでも芭蕉布を着た沖縄の人達に話しかけても言葉が通じないと思った男は洋装や和装をした人を探した。とそこに人力車から降りたばかりの帽子に眼鏡をかけた50代ぐらいの男がいた。男はその人に声をかけた。
「あのすいません。ここはどこですか?」
男は彼に声を掛けた。
「何を言っているんだね?君は?ここは那覇だよ」
「じゃあ何年の何月ですか?」
「大正5年5月6日だ」
「大正5年・・・・って事は大正時代の沖縄に来たって事か・・・・」
どうりで今の沖縄と違って自然が豊かだったのかと思った。って事はあの沖縄戦より30年近く前に来た事になる。
「君、変な事聞いて名前はなんと言うのかね?」
「
亮太と名乗る男は流石に未来から来たと言うと信じてくれないので、敢えてそれを言わない事にした。
「私は蟹江虎五郎と言って県立女学校と女子師範学校で校長をしているが、1年前に赴任して来たから君のように土地勘が無い」
「そうなんですね!お仲間がいて嬉しいです!ついでにお茶でもしませんか?」
亮太は虎五郎の手を握って喜んでいた。
「あっあ…そばのお店があるが、そこに行くかい?」
「はい!もちろんです!」
亮太は虎五郎と共に歩いて行った。
一旦、学校から安里のうらんだ屋敷に向かった。そこにはモーガンが出迎えてくれており、康徳の愛犬くぅの頭を撫でていた。未来達はさっきの話の続きをしていた。
「その・・帝国機関に誘拐されたってどういう事ですか?」
未来が康徳に聞くと、彼は「うーん」と考えながら「これも拓也から聞いた情報だが、防犯カメラに70代の男の人と小学生が映ってきたんだ。誘拐される直前だったと思う。それだけじゃない6年前から沖縄の児童養護施設や乳児院から子供の失踪事件が多発している。拓也はこれも帝国機関の仕業だと言っているよ」
「え?帝国機関ってVANISHで人を消すだけの組織じゃないの?」
「そうだよ!VANISHをインセルレボリューションっていう組織と作っていたんじゃない?」
未来とケイティは国の公的機関が児童養護施設や乳児院にいる子供達を誘拐するとは思えなかった。
「どうやらそれだけじゃなかったみたいだな・・なにせ防衛省だからいざと言う時は庶民を弾圧するような組織なんだろう。それに帝国機関はその中でも日帝こと、大日本帝国の思想を受け継いだ組織だ」
「え?じゃあ大日本帝国の思想を受け継いだ組織って事は誘拐も朝飯前って事?」
未来が3人に聞いた。
「そうだねぇ大日本帝国はやっていない悪が無いというぐらい非道なことをしているから」
エミリーが呟くと、マーティンは「ナチスよりもこっちが先だからな」と言った。
すると、1人の男が屋敷の前に走ってきた。
「おーい!」
「え?おじさん?」
なんと拓也がうらんだ屋敷に来ていたのだ。
「急に来てどうしたの?」
未来は目を丸くして拓也に訊ねた。拓也は息を切らしながらエミリーやマーティン、康徳に話した。
「実は・・その・・大昧久五郎が県知事を辞めるみたいだ」
拓也は康徳に新聞記事を渡すと、康徳が新聞記事を見た。大味久五郎はどうやら4月28日付で知事を辞めるらしい。
「そうか・・4月28日か・・沖縄だとこの日は絶妙な日だな」
「うん。屈辱の日と言われる日だからな。この時代より後の話だけどな」
「ねぇおじさん、大味久五郎って沖縄の人じゃないよね?」
未来は苗字こそ大宜味に似ているが、当時の県知事が官選で、うちなーんちゅがなれないのは知っている。
「そうだ。彼は奈良原知事並の横暴な知事で多くの県民から嫌われていた。ただ、10年前の奈良原と違い、こっちは帝国機関の人間とは反りが合わなかったみたいだけどな」
「どうして?」
「多分、沖縄に帝国大学を誘致するかどうかについて揉めていたんじゃないかな?」
「沖縄に帝国大学?」
未来は戦前の沖縄には大学を始めとする高等教育機関を作らなかったという史実を知っているが、まさか彼らがそれを実現させるとは思っていなかった。
「そうみたいだ。奴らはなぜかこの時代の沖縄に帝国大学を設置しようと思っているらしい」
「なんの目的で?」
拓也の言葉に未来は思わず耳を疑った。
「未来、多分、ハワイ大学と同じで自分達がやった事ヘの正当化か植民地研究のためだよ」
ケイティはハワイ大学を例に出して答えた。
「そうだな・・ケイティが言うように俺もそうだと思っている」
拓也達の会話を聞いていたマーティンも同調していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます