第28話 誤認逮捕

 一方、ティムやザックが殺害された現場では当時の那覇や首里の警察が来ており、殺人なのか自殺なのか検証していた。


「うーん。自殺なのか他殺なのかって言ったら、他殺だな」


 一人の刑事が現場を睨んでいた。


「だとすれば安里の屋敷にいるあの外国人たちを捕まえるべきだな。なにせ殺された外国人と同じ国の人間だし、何らかの形で揉めたんだろう?」


 もう一人の刑事がエミリーやマーティンに対する偏見を持っていた。


「さぁそれはどうかな?」


 天然パーマでサングラスを掛け、スーツを着た男が現れた。


「え?」


 2人の警察官がきょとんとした顔になった。



 伊波普猷と月城は命の恩人であるエミリーとマーティンにお礼を言うため、安里のうらんだ屋敷を訪れていた。


「あぃヤマ―あぬ2人たいたしきたんちゅやる?」


 白髪交じりのうちなーからじを結った女性がマーティンとエミリーに指を指した。

 女性は所謂「うちなーすがい」と呼ばれる琉装をしており、手にはハジチと呼ばれる刺青をしていた。女性の近くいる2人の女性も同じような格好をしていた。彼女らは白髪交じりの女性よりもう少し若いので、恐らく普猷と月城の妻であろう。


「ぃいーやんどー2人たいやジェニーとぅウィリアムどぉー。あっ、こちらは母の真鶴マジルーです」


「私はジェニーだ。あなたは沖縄県立沖縄図書館の館長伊波普猷さんですね?」


 エミリーは普猷に日本語で話しかけた。


「はい。そうですけど、何故?」


「よくあなたは新聞に投稿なさっているので名前ぐらいわかります」


 本当はスマホでエミリーは彼の事を調べていた。伊波普猷は確かに当時の琉球新報(現在と資本形態が違う)を始めとする沖縄の新聞社に論文などを投稿していた。

 もちろん、弟月城が所属している沖縄毎日新報社にも投稿していた。


「あっ、私の記事見てくれていたんですねありがとうございます。母が私達を助けてくれたお礼に野菜を……」


「いっぺーにふぇーでーびたん」


 真鶴はくーじと呼ばれる籠に野菜などを入れた食料をエミリーに渡した。


「こっ、こんなにいいのですか?」


「いいんですよ。あなた方が来なければ私達兄弟も殺されていましたから」


 月城がニッコリ笑うと、マーティンがエミリーに「貰っとけ。


 エミリーはそのまま野菜を受け取り、近くにいたモーガンに渡すと、モーガンは屋敷の中に入った。そして伊波普猷ら一行が屋敷から帰ろうとすると、「おい!屋敷にいる外国人2人を捕まえろ!」と2人の警察官が屋敷にやって来た。

 当時の警察官は今の警察と違い、軍隊のような服装をしていた。


 その様子を見ていたケイティーは心臓に悪いと思ったのか慌てて屋敷を出て行った。


「あの・・すいません。なぜ、警察がここに来ているのですか?」


 伊波普猷は2人の警察官に聞いた。なぜ、自分達を助けたエミリーとマーティンを捕まえるのかと。


「それは県立図書館近くで殺人事件が起こりまして、被害者はアメリカ人の少年達です。我々はオランダ屋敷にいる同じアメリカ人のこの2人を疑っております」


 2人のうち1人が普猷に事件の内容を説明すると、「私はその県立図書館の館長ですが」と話した。


「それなら話は早い。あなたは事件当時、何をしていましたか?」


 警察の質問に対し、普猷は「え?事件当時ですか?私はその・・殺されたアメリカ人の少年達に殺されそうになりました」と答えた。


「そうです。彼らは県立図書館で銃を持って襲撃し、館長とその弟を殺そうとしました。そして私達は彼らを捕まえただけです。殺しておりません」


 エミリーは殺害されたティムとザックが県立図書館で銃を向けた事、そして自分達は無実である事を警察に伝えた。


「そうか・・だが貴様らの無実がまだ決まった訳では無い!」


 警察達がエミリーとマーティンを連行すると、伊波普猷ら一行は「?」という表情をしながらエミリー達は自分達を助けたから何も悪いことをしていないんじゃないか?と話していた。


 モーガンは慌てて野菜をタイムマシンの中にある冷蔵庫に入れ、走ってエミリー達を追いかけて行った。


 学校ではケイティーが落ち込んた表情で教室の窓を眺めていた。


「ケイティーいや、ウトゥーどうしたの?」


 休み時間だったのか、隣のクラスの未来がケイティーのクラスを訪ねてきた。


 そんな未来を見てケイティーは目に涙を浮かべながら彼女の方を見ると、泣きながら


「うっ・・エミリーさんとマーティンさんが捕まっちゃったどうしよう・・」


 と未来に抱きつき、「うわーん」と声を上げた。すると、周りにいたクラスメイトが驚き、ひそひそと何かを話していた。


 未来は彼女の突然の行動に戸惑いながら「え?そうなの?」とケイティーに訊ねた。


「うん。多分、警察に取り調べを受けると思う。あの時代の警察だから自白させられないか心配・・」


「あの時代どころか、2016年の警察もそんな感じだと思うよ」


 未来はケイティーに警察は1916年も2016年も精神的な部分は変わらないと話したが、当時の警察は悪名高き特高警察がいる内務省の管轄だ。今以上に庶民やマイノリティーに牙を剥く可能性が高いのだ。


 ましてや外国人のエミリーやマーティンに彼らの対応が良いかと言えばそうでも無い。白人では無い2人にはかなり執拗なレイシャルプロファイリングをされるだろう。


「そう・・無事に戻ってこればいいけど」


 ケイティが呟くと、次の授業が始まるチャイムが鳴った。未来はチャイムの音が鳴ると、「じゃあ教室に戻るね」とケイティーに告げると、自分の教室に戻って行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

VANISH! Remake 浮島龍美 @okinawa1916

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画