第27話 喜舎場朝賢②
次の日、学校から帰った未来とケイティーはさっそく動きやすい洋装に着替え、翻訳機を付けてエミリーとマーティン、拓也、と共に路面電車に乗り、久米大通りで降りて那覇駅に向かった。動きやすいと言ってもこの時代の沖縄で洋装なのでかなり目立っていた。
「ケイティー!なんか私達、可愛いワンピース着ているけど、みんなジロジロ見ているよ!」
未来が興奮しながら那覇駅内を歩いていると、ケイティーが「だって洋服着ている人なんていないからね!」と洋傘を持ちながらニコニコしていた。
「他の人もいるからあまりはしゃぎすぎるなよー」
拓也は駅のホームに立つと、軽便鉄道が来るのを待っていた。
那覇駅からあの軽便鉄道に乗る事になった未来はどんなものなのかわくわくしていた。しかし、実際に来た軽便鉄道は思ったよりも小さめで期待外れだった。軽便鉄道は那覇駅から出発し、与那原駅に着いた。軽便鉄道は思ったより揺れ、乗り心地が悪かった。当時の与那原駅は物資の行きかう交通の要所であり、荷物を運んだ馬車を操る者たちがいた。彼らの事を「
結構、暗くなったなと思った未来達は村の人達の案内により、無事に喜舎場朝賢の家に辿り着いた。喜舎場の家はかつて士族の家だったとは思えぬ茅葺屋根の家だった。未来達はその中に入ると、そこには布団に伏せている髭の生やした白髪の老人がいた。
「あなたが喜舎場朝賢ですか?」
未来は白髪の老人に尋ねると、ケイティーが「ちゃーびらたい。うんじゅや喜舎場朝賢やいびーしが?」と琉球諸語で話した。
朝賢らしき老人は「ぃいー」と弱そうに答えたが、彼の身内の男性が「あなた達は誰ですか?
「拓也、知り合いなのか」
エミリーは拓也に聞いた。
「実は10年前、喜舎場朝賢が書いた『琉球見聞録』の一部の史料を狙う帝国機関に狙われた時に俺が喜舎場朝賢さん達を護衛したんだよ。あの時、帝国機関はVANISHを開発していた時だから危うく喜舎場さんも消されそうになっていたんだよ。彼の他にはあの
「どうも父が書いた『琉球見聞録』で日本軍による王府の役人に対する拷問が彼らにとって都合が悪かったのでしょう」
朝賢の身内の男性が『琉球見聞録』の事を話していた。
「その見聞録について知りたいんです!」
ケイティーはキラキラした目で身内の男性を見つめていた。
「まぁもうあまり話すのが厳しいかもしれないけど、大丈夫かい?」
「はい」
ウタが喜舎場朝賢の元へ行くと、未来も寝床へ行った。
「君達は?」
喜舎場は琉球諸語で未来達に話しかけた。
「私は県立高女4年の伊舎堂カマドです」
「我んねー県立高女4年ぬ宮城ウトゥーやいびーん」
「ああ、我んが喜舎場朝賢だ」
「喜舎場さん、『琉球見聞録』に記されている日本軍の拷問は本当?」
未来は朝賢に聞くと、朝賢は険ししい顔で下を向いた。
「本当だ。その拷問は、縄で両手を緊縛し梁に吊るして、棒で強く殴打した。苦しみ叫ぶ声は遠く離れている場所にまで響いた。拷問を受け囚われの身となった者は、皮膚が裂けて爛れていたぞ」
朝賢が言うようにそれは事実だったようだ。
「酷い・・・そんな事が許されるとでも思っているのかな?」
「もはや併合じゃなくて侵略につき植民地だよ・・・」
未来とケイティーは日本側の意見に従わなかったものに対する拷問の話を聞かされ、戦慄した。何が奴隷解放論だ。奴隷解放どころか新たな奴隷主が生まれただけだ。2人はそう思った。
「そう言ってくれるのかありがたい。奴隷解放なんてぼざいた男よりましだな」
朝賢もまた伊波普猷の言説を気に入らなかったようだ。
「え!?そうですか!」
未来は朝賢の言葉に驚いた。
「少なくともな。奴隷解放論を正当化したりしないだろう?」
「ええ。それは間違った論説だと思います」
未来ははっきりとその論説が間違いであることを述べた。
「ふふ。こりゃ伊波普猷を超える逸材になりそうだ」
朝賢が微笑すると、布団を被って寝た。そんな2人を見た朝賢は次の日、この世を去る。
享年76。琉球国滅亡を見た男の波乱に満ちた生涯であった。
県立図書館で訃報の記事を見た未来とケイティーは涙を流した。
「喜舎場さん、最後の最後に私達に琉球国の滅亡の事、その後に起こった酷い出来事を教えてくれたねぇ」
未来は目を手で擦りながら新聞を見ていた。
「うん!私が本で見た通り本当に日本軍は酷い事をしていた。まるでハワイを滅ぼした米軍みたいにね」
すると、奥から「君達、また図書館に来ているのかい?」と伊波普猷の声が聞こえてきた。
「あ!何だよ!お前!また琉球処分は奴隷解放論とかいうFuck!な言説を言うつもりだろ!」
ケイティーは普猷に指を指した。
「違うよ宮城君。それに汚い英語はやめたまえ。実は伊舎堂君や宮城君に伝えたい事があるんだ。次ページの記事を見てくれ」
普猷に言われた通りに2人は次のページをめくると、そこには県立図書館の近くでティムとザックが殺害された事や事件の重要参考人としてエミリーとマーティンの名前が載っていたのだ。
「え・・あの人達、殺されたの?」
未来は彼らが殺された事に驚きを隠せなかった。
「そうみたいだ・・警察は私を助けた人達が犯人かもしれないと疑っているみたいだが、彼らがそんな事をするのだろうか?」
普猷は新聞記事を見ながら考えると、ケイティーはエミリーとマーティンが殺人なんかするはずないと思っていたが、重要参考人となっているので、逮捕されないか心配だった。
「・・あの人達はそんなことはしない・・」
ケイティーが呟くと、未来が「だって私達を助けた人達だからね」と話した。
それでも2人はエミリーやマーティンの事が心配だった。
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