第20話 帝国機関の計画
その辻遊郭の店の中で食事をする海軍と陸軍の将校らしき2人の男が酒を飲みながら食事をしていた。
1人はやや小太りの中年男でもう1人は健康そうな褐色肌にはっきりとした顔立ちの30代半ばの男だった。
2人はアルバース財団と敵対する帝国機関の一員である
「山下君、こんな所は初めてか」
陸軍の将校の恰好をした肇は酒を飲みながら海軍将校の恰好をした隆平に声をかけた。
「井上副部長、初めてというか現代でもこんな所には行った事はありません」
「はは。そうだよな。まあ、ここはキャバクラと風俗を足して割ったような場所だからなチャンスがあればこの辺にいる女と寝る事ができるかもしれないぞ」
肇がニタニタ笑った。
「え?冗談はやめてくださいよ」
「冗談ではないぞ本当にできるからな。
さて本題に入るとするか。江口君から聞いた話だが、真栄田マカトと玉城オトと言う女2人がVANISHという機械で消されたそうだ。
報告によると、玉城は真栄田の巻き添えを食らう形で消されたみたいだな。
その真栄田マカトという女だが、我々の計画に邪魔になる女だ」
「なぜでしょう?彼女は別に琉球独立運動や社会主義運動をする過激派ではありません」
隆平は真栄田マカトがなぜ、帝国機関の計画に邪魔になるのかわからなかった。
「我々はこの時代の沖縄に帝国大学を作ろうと考えている。そこで日琉同祖論などを唱える沖縄出身の伊波普猷を大学の教授にしようと思っている。この計画は山下君ももちろん知っているな?」
「はい、
隆平が漢那中佐と呼ばれる沖縄出身の軍人から彼の情報を得ていた。
ちなみに漢那中佐とは伊波普猷と同じ、那覇で生まれた沖縄出身の海軍軍人
「確か伊波とは幼馴染と言っていたな。漢那中佐が海外に行く前に情報を得られて良かった。とにかく本部長の話によると、真栄田マカトという女が上京するきかっけになっているらしい。沖縄に帝国大学が出来る前に上京されても困るからあの女を消したのだ」
「でも、彼の上京には柳田國男や折口信夫もきっかけになっています」
「もちろん、それは知っている。だが、2人には帝国大学が無事に設立された時に教授として招待する予定だから消さないでおく」
肇はそこを都合よく解釈した。
「なるほど。しかし、沖縄に帝国大学を作る予定でしたら大学予科も作った方がよろしいのでは?」
「それもいい。もし、そうなれば大学予科からの建設に取り掛からないといけない」
肇は皿にある酒のつまみを食べた。すると、色気のある若い女性が隆平の元へ来た。
「あぃ、そこの若い軍人さん、私と遊びませんか?」
隆平は
尾類の女性と遊ぶ隆平を見て肇は肇は酒を飲みながら腹の底で何か企んでいた。
(フフ、沖縄に帝国大学ができればこの時代の沖縄が台湾や朝鮮のように『大学を作ったから植民地では無い』と主張する事ができるし、大学が出来れば俺達に従う沖縄県民が生まれる。)
肇は糸目を開くと三白眼の目で周囲を睨みつけていた。
次の日、未来はケイティ―とカリフォルニア支部の準職員モーガン・オレイリーと共に組合教会に行く事になった。
蓮や沙夜は教員の仕事があってこちらへは来れないそうだ。(本人たちの言い訳だと思うが・・)
未来は真栄田マカトの言葉が気になり、長浜氏の家に行った。
長浜氏と呼ばれる人物の家に行くと、なぜか伊波普猷が出迎えてくれた。どうやら田仲縁の事も知っているらしく、縁もまた10年前に会った事があるという。
「あのすいません。真栄田マカトさんはいますか?」
未来は組合教会にいた真栄田マカトについて聞いた。
すると組合教会のメンバーが「?」というような表情をしていた。
「真栄田マカト?そんな人いないぞ」
寛範が真栄田マカトと言う女性を知らなかった。
「え?昨日まではいたはずなのに」
「昨日も何も真栄田マカトという女性はここにはいない」
「え?普猷さんも知らないの?じゃあ真栄田マカトさんと一緒にいた玉城オトさんは?」
未来は普猷に玉城オトの事も聞いた。
「・・・・知らない」
普猷は真栄田マカトの事だけではなく、玉城オトの事も知らなかった。
「あの2人のことはどうでもいいから入ってくれたまえ」
「本当に知らないの?」
未来やケイティーは戸惑ったが、普猷に言われた通り長浜氏の家に入った。
長浜氏の家に入ると、そこではいつものように組合教会の集まりが行われていた。
「波平先生と柳先生は来ていないのか」
「はい、教員の仕事があると言って来ておりません」
未来に言われると普猷は言われてみれば初子も来ていないなと思った。
組合教会の中に入ると昨日までいたはずの真栄田マカトや玉城オトはいなかったが、永田姉妹や新垣美登子や知念芳子はいた。
その中でも八重は寛範の隣で話していたが、未来はただの友達としか思わなかった。
(八重さん、蓮が言っていたようにやっぱり付き合っていたんだ)
ケイティ―は蓮が昨日話していた事を聞いていたので、なんとなく気づいていた。
するとモーガンが伊波普猷を見てウタに「Chinese?」と聞いてきた。
「No! He`s not Chinese. He`s, Okinawan. 」
ウタはすぐさま普猷を中国人ではないと答えた。
未来も彼を見る限り「沖縄の人」と言うより、「日本人」か「中国人」にしか見えない。アメリカ人のモーガンからすれば余計そう見えるだろうなと思った。
「ああ、ごめんなさい。紹介するの忘れていた。この人は私の家に住むカリフォルニア出身のリアーム・アーサー・キーガンです」
ウタはモーガンの潜入捜査での名前を答えた。
「リアームだ。よろしく」
モーガンは流暢な日本語を話した。
「リアームさんって言うのね。男装が似合う方ね」
美津子はモーガンの姿を見て「男装の麗人」だと思っていた。モーガンはむすっとした態度になった。
その様子を見たケイティ―は冷や汗をかきながら気まずそうな表情をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます