第18話 組合教会の人々


「教会っていうからキリスト教の集まりじゃない?」


「そうだよね」


未来と蓮は名前を聞いてすぐにそう思った。


「そうです。正確にはプロテスタントの一派であり、アメリカ合衆国教会に属しています。日本でも組合教会は作られ、こちらでは去る3月4日に設立されました」


「できたてほやほやって事だね」


「はい。そうです。また、こちらは偶像崇拝をしておりません。あっ言い忘れていましたが、私は組合教会の一員である永田八重です。美津子と文子は姉妹です」


 八重と呼ばれる20代前後の女性が話すと、八重よりもはっきりした顔立ちで美人な美津子と男性のようにゴッツイ顔立ちで奥二重の文子が4人に笑って会釈をした。


「普段の活動として聖書を読んだりしています。皆さんは聖書をご存じですか?」


八重は未来達に聖書について聞いてきた。


「旧約聖書とか新約聖書の事ですか?キリスト教の幼稚園に通っていたので、習った事があります。殆どが忘れてしまいましたが」


未来が過去にキリスト教の幼稚園に通っていた事を話した。これは嘘ではなく、事実であった。


「私もハワイの幼稚園で習ったよ」


ケイティーもハワイにあるキリスト教の幼稚園で習ったようだ。


「そうです。正確には主に『ヨハネ伝』や『マタイ伝』の話です。伊舎堂さんもご存じで?」


「ヨハネは聞いた事がありますがマタイは聞いた事がありません。幼稚園は10年以上前に通っていたので、忘れました」


「そうですか。ここでまた、思い出して下さい。他の御二方は聖書をご存じですか?」


八重は沙夜や蓮にも聞いた。

蓮は未来やケイティーのようにキリスト教の幼稚園ではなく、公立の保育園を得て小学校の敷地内にあった幼稚園に通っていたので聖書のことなんぞ知らなかった。


「私はキリスト教の幼稚園に通っておりませんし、信者ではないので知りません」


蓮は答えた。八重にはそういうしか無いのだ。沙夜も蓮同様、聖書の事は知らなかったらしく、「キリスト教徒ではないから知らない」と答えた。


「そうですか。じゃあ聖書を多少知っているのは伊舎堂さんと宮城さんだけですね」


「はい」


「そうだね」


「聖書の話ならどのような話を知っていますか?」


「『アダムとイブ』が有名ですよね。後、『モーセの十戒』やソドムとゴドラとかあの辺りですかね。『ソドムとゴドラ』は奥さんの方が塩の柱になって死んでしまうから怖かったです」


「私も『ソドムとゴドラ』は怖かったわ。」


未来とケイティーは聖書の中でも「ソドムとゴドラ」の話は怖かったと話した。


「確かに言われてみれば子供には『ソドムとゴドラ』は怖いかもしれませんね。

あれ?先生しんしー、今日は比嘉牧師と照屋牧師が来ていませんよ」


八重は普猷に組合教会のメンバーとされる男性2人が来ていないと話した。


「照屋君や比嘉君は後から来るらしい」


普猷が彼らの事を言うと背が高くて堀の深い口髭を生やした男と眼鏡をかけた顔の濃い口髭を生やした男がやって来た。


先生しんしー館長なんだから図書館の仕事してくださいよー」


普猷より背が高い男性が困った顔で言った。


ったーに任せないでくださいよ。あれ、見かけない顔がいますね」


もう1人の顔が濃い男が未来達4人を見た。


「あら噂をしていたら比嘉牧師と照屋牧師じゃない!あの4人は東京とハワイから来た高女の教師と生徒ですの」


八重は嬉しそうな表情で話した。まるでそれは2人のうち1人を待っていたかのようだった。4人は2人を見て挨拶すると、畳に座った。


「あれ絶対どっちかの事好きだよ」


蓮は八重の様子を見て照屋牧師か比嘉牧師に恋愛感情を抱いている事を察したが、未来は蓮を見ながら「?」というような顔をしていた。


「あんた恋愛に疎いね。ってか伊波普猷って図書館の館長だったの?」


「うん。県立図書館の館長だよ」


「え?大学教授とかじゃなくて図書館の館長にみんな先生って言っているわけ?」


蓮は彼らがたかが地方の図書館の館長である普猷の事をなぜ先生と言っているのか理解不能だった。


やっちー兄さん、またあれなんかに図書館の仕事を任せたのか?」


目鼻立ちがはっきりした塩顔の綺麗な男性が普猷の事を「やっちー」と呼んだ。

「やっちー」とは琉球諸語で位の高い人が言う「兄」を示す言葉だ。日本語で言えば「兄上」というニュアンスだ。ちなみにそうでもない人は「あふぃー」と呼ばれる。


「あれは私には出来ない仕事だ」


普猷はどうやら図書館の仕事で出来ない仕事があったそうだ。


「だからと言って部下任せはだめだろ」

身内らしき男性に注意されていた。


「みんなそろったという事で組合教会の一員を紹介しよう。えーと私達と先生しんしーはわかるよね?」


美登子が未来達に尋ねると、4人は「うん」と答えた。


「というかあの人の親、自分の子供に怠け者ふゆーなーって名前を付けたのね」

ウタは普猷の名前が変だと思った。


「まぁ名前がだしね。でもそれとは別に童名わらびなーがあるみたいだけど」


未来も流石に彼の名前は「」みたいで変だと思った。


「よかった。ちなみに組合教会でも比嘉は3人いるからそれぞれ『初子先生』、『比嘉牧師』、『春朝さん』って呼んでいるよ。こっちが真栄田マカトさんと玉城オトさん。2人とも高女の先輩で、マカトさんはメーダぐゎーって呼んでいるよ」


美登子は月の形をした眉をした鼻の低い地味な顔立ちをした女性と目がぱっちりで眉が太い女性を紹介した。


「オトって私もウトゥーだけど、ほぼ同じ名前だ」


ケイティーは偽名だが、自分と同じ名前の人がいたので、喜んでいた。


「よろしくお願いします」


2人は上品な口調で挨拶をした。




「こっちが伊波先生しんしーの弟の月城げつじょうさん。先生しんしーに顔が似ていないでしょ」


「全然似てない」


蓮は普猷と月城を見た。


恐らく、2人の両親のうち1人が本土の人間のような顔立ちでもう1人が沖縄の人みたいなはっきりした顔立ちだろうなと思った。


「よく兄に似ていないと言われます。本当の名前は普成ふせいですが、青山学院にいた頃、名前を言うとよく変な顔をされたので、月城っていう通称で通しております」


(あの時代の沖縄で東大と青山出ている兄弟って多分家が金持ちなんだろうな)


月城の話し方は兄と違って柔らかい話し方だが、蓮は彼ら兄弟の育ちの良さが出ているなと痛感させられた。



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