第16話 出会い


「どうする?」


 未来は蓮やケイティー、沙夜に相談した。


「どうするって言われてもな・・・・沙夜さん、この時代で過去の人と接触してもいいですか?」


 蓮は沙夜に過去の人と接触していいのかどうか聞いた。


「だめとは言わないけど、深く関わり過ぎない方がいいね」


「ですよね。関わり過ぎて歴史が変わる可能性だってあるし」


「そうね。私も伊波普猷って人はあまりよく知らないけど、未来から聞いている限りそこまで有名な人でもないから少しぐらい関わってもいいじゃないのかな?」


「本当ですか?ありがとうございます」


 未来は今まで出さなかった笑顔を見せた。


「よかったな。みく、いやカマド」


 ケイティーはにこっと笑った。


 未来は他の3人と話した後、初子達に「この3人と一緒なら組合教会に行ってもいいですよ」と話した。

 その後、沙夜は隠れてスマホで縁に連絡し、未来達は比嘉初子らと共に路面電車に乗った。

 路面電車の中では比嘉初子と一緒にいた女学生達が自己紹介をした。

 はっきりした顔立ちの子は新垣美登子あらかきみとこ、塩顔の子は知念芳子ちねんよしこ、小柄な体型にあどけない顔立ちした子は名嘉原なかはらツルと言った。

 3人共、女学校の3年生であり、4年生である未来やウタとは1学年下だ。

 本人達によるとそれぞれミトーやマジュー、ナカハラーかツルーと呼んで欲しいと言う。

 また、未来のマニアックな知識に彼女らは黄色い歓声を上げていた。

 蓮は彼女達を見て近所のおばさんみたいな話し方だなぁと思った。


  路面電車に乗り大門前に降りると、新垣美登子が「長浜先生の家に行こう」と言って西本町4丁目にある長浜先生と呼ばれる人物の家に向かった。


 長浜先生の家に近づくにつれ、赤瓦の屋根だが、石垣の囲いが取り除かれた町家風の建物が立ち並び、その多くが海江田商店、大坪商店と言った寄留商人と呼ばれる本土出身の商人達が経営する店だった。


「なんだか内地ないちみたい。あの時代も内地の人が経営する店があったんだ」


「本当だ」


「まるでオキナワンが商売できませーんって感じで嫌だ」


 沖縄の歌に「大和世やまとゆーーからアメリカ世ー」という民謡の歌詞があるが、この時代の沖縄はまさに大和世ーやまとゆーである事を3人は思い知らされた。


「沙夜さんはそういうふうに思っていないのかな?」


 未来が沙夜がどう思っているか聞いた。


「あの人内地の人だから何も思わないはずよ。後、今でもホテルや居酒屋、お洒落なレストランは内地の人が経営するから今と変わらないね」


「沖縄は今も日本の植民地。ハワイだってアメリカの植民地だから」


「ウタ、その言い方は流石に過激じゃない?確かにこの時代の沖縄は一見すると見えるけど・・・・・」


「過激でも何でもない。事実だよ」


 ウタはこの時代の沖縄を見た結論が「日本の植民地」であった。


 西本町にあるという家に着くと、この辺りでは珍しい石垣の囲いがある赤瓦の家と門があった。


 今の沖縄では民俗資料館や博物館、観光施設、竹富島でしか見ることができない。

 比嘉初子らがその家に入って行くのを見ると未来達も家の門の中に入って行った。

 門をくぐると、長浜先生の身内らしき琉装をした女性が「めんそーりよ」と言って出迎えてくれたが、彼女の手にはハジチが施されていなかった。

 初子達は彼女に琉球諸語で何かを話していたが、未来達はそれを聞き取る事が出来なかった。


 1


 女性が出迎えるそぶりを見せると未来達は靴や草履を脱いで家の中に入った。


 家の中に入ると、未来達8人の他に琉装や和装、学生服を着た男女10人が座って会話をしていた。

 その中に異様な雰囲気をした髭眼鏡の男が着流しの着物を着て座っていた。

 男は髭を生やしているが、シワが無いので、そこまで年寄りでは無い。また一重瞼の平たい顔だったので、30代半ばの本土出身者に見えた。

 男はぼんやりとした表情で周囲のものと目線を合わせずに座っていた。


(え・・こいつ教祖じゃん・・)


 蓮はあまり関わりたく無い人だなと思ったが、自分より過去の事に詳しい未来にあの男について聞いた。


「ねぇあの人、内地の人?」


 蓮は小さな声でささやくと、未来は男の方を見た。男は写真で見た伊波普猷その者であった。未来は白黒写真でしか彼を見た事が無いため、若干、興奮していた。


「違うよ。沖縄の人だよ」


「まじな?」


  蓮は彼の容姿を見て一瞬、本土の人間かと思っていた。後、彼の近くには橋口妙子に似た学生服を着た少年がいた。


「あの子も眼鏡をかけているけど流石に内地の子だよね?」


 蓮は少年に指を指すと未来は妙子に似た少年を見て「多分そうだよ」と言った。



「ちゃーびらたい。伊波先生しんしー!」


 新垣美登子が元気よく挨拶した。

 するとさっきまでぼーとしていた伊波普猷も新垣美登子や未来達4人の方を向いた。


「おお、ミトーか。ぃえーあぬ4人ゆっちゃいたーやが?」


 普猷は未来達4人を見た。彼の声はとても細い声だった。


 4人は塩顔のおっさんが琉球諸語で話すので「ぷぷぷ」と笑いを堪えていた。


「ねぇ、あの人なんて言っているの?」


 蓮は普猷の言っている意味が分からなかったので笑いながら未来に聞いた。


「多分、あの4人誰?って聞いていると思う」


 未来は蓮より琉球諸語を少し知っていたので何となく普猷が言っている事がわかっていた。


「えーそうなのーねぇもしかしてあの変な髭の生えているおじさんが伊波普猷?」


 蓮は笑いながら未来に聞いた。


「え?そうだよ」


 未来があっさり答えると、蓮は未来が会いたかった人ってこんな髭眼鏡の変なおじさんなのか?と困惑しながら彼女を見ていた。

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