第15話 誘い
崇元寺の見学が終わると、教師らの合図と共に高女も女師も全員集合した。
未来と一緒にいたマスという少女や蓮と一緒にいたウタも妙子もそこは先生の言いつけを守って集合したが、1人だけ遅れてくるのがいた。
そう、未来だった。急いで崇元寺の石門を通ると、蟹江校長に怒られた。
「東京帰りの転入生が遅れて来てどうするんですか?」と。
未来はびっくりして「あーすいません。崇元寺が好きすぎて夢中になりました」と高女の4年生の列に並んだ。
(未来が遅れてきたのはわかるけど、言い方が酷いな・・)
校長の傍らで見ていた蓮はそう思っていた。
崇元寺の社会見学について校長は生徒に対して、時間を割きながらであったが、郷土の勉強になったとか、女師と高女の親睦を深めたなどを話していた。そして・・
「・・・・では、これにて崇元寺の社会見学は終わりとする。解散!」
校長が告げると、教職員や女師も高女もばらばらになって帰って行った。
この「解散」と言う言葉、同校では後に重大な悲劇を生むことになるが、それはまだ先の話である。
未来と蓮、沙夜やケイティーと言った4人は崇元寺にある電車の停留所で合流した。
「校長の声、
蓮は校長の大きな声にびっくりしたようだ。
「いきなり言うもんだから私も心臓抜かれると思ったよ」
沙夜が話すと、4人の目の前に初子と3人の少女が立っていた。
3人共未来同様、海老茶袴に靴を履ていた。質素な格好をしていないので恐らく彼女らは高女生だろう。
1人は厚ぼったい唇にはっきりとした顔立ちの子、もう1人は塩顔だが、丸っこい鼻の子、さらに1人は小柄な体型にあどけない顔立ちをした少女だった。
「あっ、初子先生どうしたんですか?」
「そうですよ。急に私達の前に立って。何か用ですか?」
「私達はそろそろ電車に乗らなければいけませんが?」
「あの初子先生と後の3人は誰?」
未来や蓮、沙夜とケイティーは「?」というような表情をしていた。
「あのこれから私達と共に『組合教会』に行きませんか?」
初子は「組合教会」というわけのわからない団体に来ないか?と誘った。
すると蓮が「組合教会」という名称に拒否反応を示した。
「初子先生、そこってどういう団体ですか?まさかカルト教団みたいな危ない団体じゃないですよね?教師であるあなたがその一員だったら、まずいですよ」
蓮は「組合教会」が1916年の沖縄におけるカルト教団みたいな団体だろうと思っていた。
「・・世間からは『
「ますます怪しい。初子先生、まさか教祖みたいな人に洗脳されているんじゃ・・」
蓮は初子が誰かに洗脳されて自分をわけのわからない団体に勧誘しているのではないか?と疑った。
「初子先生は洗脳なんかされていません!」
厚ぼったい唇にはっきりとした顔立ちの子が大きな声で言った。見た限りだと彼女は連にも負けないぐらい勝気そうな性格に見えた。
「ただ、初子先生は伊舎堂さんを
塩顔の子も初子がカルト教団に洗脳されていないと話した。
「伊波先生?その人が『組合教会』っていう胡散臭い団体の教祖みたいな人?」
「違う。多分、伊波普猷の事」
未来は蓮のようにそう思わなかった。
「え?そうなの?」
「うん。さっき初子先生に『古琉球』って本見せたし」
未来はまたしても肩掛けカバンの中から初版本の「古琉球」を取り出した。
「うわぁ・・・やっぱりマニアック・・」
松尾山にある赤瓦の家で見かけた時と同じように未来はそうだった。
「知らなかったんですか波平先生!伊舎堂さんは11歳の時から伊波普猷を知っていますよ」
ケイティーが口を開いた。
「え…小学生の時から知っているの・・」
蓮は未来のマニアックぶりに驚きを隠せなかった。
「伊舎堂さんって小学生の時から
あどけない顔立ちをした少女が未来をほめた。
「沖縄にいたら
塩顔の子が「子供会」と呼ばれる組織の名前を言った。
ちなみに「子供会」とは伊波普猷が実際に行っていた活動であり、主に1913年~1914年にかけて自身の自宅を借りて行われていた。1914年、自身の糖尿病によりその活動は停止となった。
「じゃあ決まり。伊舎堂さんを組合教会に誘いましょうよ」
はっきりとした顔立ちの子が初子に言うと、初子は未来の表情を見た。
「新垣さん、伊舎堂さんがどう思っているか考えてください。伊舎堂さんはどうですか?」
初子は未来がどう思っているか聞いた。
未来は写真でしか見た事が無い伊波普猷がどんな人か会ってみたいが、彼と出会えば歴史が変わってしまう可能性が高い。関わり方次第では自分自身が元の時代へ戻れなくなる可能性だってある。タイムスリップを題材にした小説や漫画でよくありがちな話だ。
未来は一旦、「ちょっと考えさせてください」と初子に言って連やケイティー、沙夜と話す事になった。
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