第11話 新学期①


兼村未来かねむらみくは県立高等女学校の編入試験に無事合格した。4月6日新学期を迎え、本格的な潜入捜査が始まった。

 未来は前髪を下ろしたマーガレイトの髪型に赤い蝶々結びのリボン、紺色の元禄袖げんろくそで海老茶袴えびちゃはかまという当時の女学生スタイルに身を包み、白の肩掛けカバンを持っていた。

 当時はまだ肩掛けカバンよりも風呂敷で教科書を包んで登校する女学生が多かったが、未来は自分で風呂敷を包む事が出来ないので肩掛けカバンとなった。

 この時代の女学生と言えば「袴に編み上げブーツ」の印象が強いが、実際彼女達が「編み上げブーツ」を履いていた時代は1900年代の後半から1910年代の前半と短い期間であり、この時代に入るとパンプス、黒の編み上げの短靴、ストラップシューズを履く女学生が多かった。

 一方、亜熱帯気候の沖縄では下駄や草履を履くのが主流だったとされている。

 未来は潜入捜査上、「東京帰りの女学生」という設定なので、黒いストラップシューズを履いて県立高等女学校へ登校する事になった。

 松尾山から「いってきます」と言って赤瓦の民家に改造されたタイムマシーンから出た未来は縁と共に路面電車に乗って相思並木がある県立高等女学校へ向かった。

 周りを見渡してみると、やはり未来と同じように蝶々結びのリボンをしている袴姿の女学生達がいたが、未来と違って前髪を下ろさず、ハーフアップにしている生徒が多かった。

 そして編入試験で見かけたハイカラな女学生達は皆、マーガレットやお下げにリボンと言った髪型をしており、パンプスや編み上げの短靴を履いていた。

 未来は緊張しながら学校の校門へ入って行った。


 校舎に入ると、新学期の集会があるから講堂に来るようにと教員が生徒に呼び掛けていた。未来は荷物を持ったままだったが、他の生徒たちと共に講堂へ向かった。

 講堂には大勢の女学生達がいたが、殆どが豪華な着物と袴を着た高女の生徒達であり、質素な格好をした女師の生徒は出席している人が少なかった。


「うわっ、格差社会。これで仲良くしようとか言ってんの?無理でしょ」


 既に講堂に来ていた蓮はこのありさまに呆れていた。


「あの、れん、あっ波平先生来ていたんですか?」


 未来は蓮が来ていた事と袴を着ていた事に驚いた。


「来てたよ。って格差えぐくない?」


 蓮は集まっているを生徒達を見た。


「なんか女子師範の人が少ないみたいです」


「やっぱりね。金持ちのお嬢様ばかりの女学校とそうじゃない師範じゃ服装にも貧富の差が出て講堂にも出席できないと思う」


 蓮は女師の子が殆どが決して裕福ではない家庭環境の子が来るので、師範の子達は着れる服がないのでは?と考えた。すると、遅れてケイティーが袴姿で講堂に入って来た。ケイティーも風呂敷ではなく、肩掛けカバンで来ていた。


「ケイティー」


「みーくーじゃなくて潜入捜査の名前だった」


「あー昨日も言ったけど伊舎堂カマドだよ」


「そうだった。カマドゥーだった」


 ウタはいつもの癖でと言いそうになっていた。


 講堂では校長による挨拶が行われ、講堂に女師の生徒が少ないことに嘆いていた。


 講堂での挨拶が終わると、転入生達は教員の案内によって各教室に行く事になったが、未来とウタ以外の転入生は3年生や2年生の教室に行った。

 未来はウタと辺土名沙夜と共に4年生の教室に向かった。


「大人っぽく見えたけど、あれ私より年下だったんだ」


 未来は自分よりも年下なのに大人っぽい女学生達を見て


「そうみたい。おばさんみたいな髪型しているから老けて見えるけどね」


 4年生の教室に向かうと教室は「四年甲組」と「四年乙組」と書かれた教室があった。


「さやさんいや、サヨさんどっちの教室に入ればいいですか?」


 未来はどこの教室に入ればいいのかわからなかった。


「教室は編入試験の成績順なので伊舎堂さんが甲組で宮城さんが乙組です。それから伊舎堂さん、こちらではサヨさんではなく、柳先生です」


 沙夜は未来に向かってにっこり笑いながら2人の潜入捜査での名前を言った。


「はい」


 未来は彼女が笑った顔が妙に怖いなと思った。ウタは隣の教室である乙組の教室に入って行った。

 未来はウタと別のクラスになるのが嫌だなと思いつつ、ちょっと厳しそうな沙夜と共に甲組の教室に入った。

 柳サヨこと宗像沙夜むなかたさやは自分が4年生の担任を受け持つ事に驚いていた。

 2日前それは突然、蟹江校長によって告げられた。


「柳先生は4年生の担任をするように」


 とその理由は前の学校で教師をしていたかららしい。


 本当は大学での教員実習で櫻崎学園高校で教員実習をしたぐらいだ。教員の免許は持っているが、教員にはなっていない。教員経験があまり無い自分にとってこれは流石にキツイものではないかと思っていた。


(なんで私が来たばかりだと言うのに担任なんかしなきゃいけないんだよ・・)


沙夜は若干、イライラしながら木造の扉を開けた。


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