第10話 不穏な空気

 帰り道、未来達は裁判所の前で降りると、2人の外国人を見かけた。見た感じ未来と同じ年ごろの少年達で1人は青いハンチング帽を被り、ヨレヨレのくすんだ白いシャツにサスペンダー、長ズボンをはいた金髪碧眼へきがんの可愛らしい顔立ちをした少年で、もう1人は赤茶色の髪に顎が割れた少年だった。未来は縁に「なんでアメリカーがこんな所にいるのかな?と聞いた」


「さぁわからない」


縁も2組の外国人がなぜここにいるのかわからなかった。


2組の外国人も蓮と未来の存在に気づいたのか



「おい!アジア人如きが俺達の事をじろじろ見てんじゃねぇよ!」


 少年が未来や通りかかる街の人達に中指を立て、見た目からは想像も出来ないような人種差別発言をしていた。


「おいティム。気持ちはわかるが、目立つ事はするなよ。」


 ティムとほぼ変わらない恰好をした赤みがかった茶色の髪に同じような目の色、背が高く、顎が割れた顔がゴッツイ青年だった。


「ザック、ここはアジア人がうようよいて反吐へどが出るぜ。わかるか?」



「そりゃわかるさ。せっかく有色人種お断りの会社に入っている意味が無いって事だろ?」


ザックの言う有色人種お断りの会社とは「インセルレボリューション」という自らを「不本意の禁欲主義者」と名乗る所謂「インセル」の人達が4chan(英語圏向けの2ch)のインセル掲示板をきっかけに設立された会社であり、アメリカ南部に拠点を置いてる。

主にそれを名乗る所謂モテない男性達が所属しており、銃やロボットなどの制作をしているが、女性蔑視、人種差別的な言説が目立つ白人至上主義の組織の為、社員にユダヤ人や有色人種、女性はいないとされている。

なんとその会社は米軍基地がある沖縄にもあり、米軍の子弟であるティム達もそこの支部に入っている。


「そんな会社が『帝国機関』とかいうわけわかんねぇ日本の組織から『を開発しろ』と依頼されているんだぞ。ったくせっかく北谷で遊んでいたのに」


ティムはかなり不機嫌だった。


「あー『VANISH』の事か。それなら俺が奴らに渡したぞ。それにが入った『VANISH』を持っているぜ。えーと『セナガ・カメジロウ』に『ヤラ・チョウビョウ』・・・俺達、アメリカにとって都合の悪い奴ららしいから開発者の1人である俺にあずけて欲しいってさ。」



ザックはUSBのような形をした機械を2つ持っていた。


「でも2人共、まだガキだろ?」


「あいつらによるとガキのうちに消すのが手っ取り早いんだってさ。大人になってからじゃ遅いんだと」


「ふーん。じゃあ奴らの依頼は終わったんだろ。そのまま帰らねえのか?」


ティムはこの場所にいるのが嫌だった。


「それが、この辺りにアルバース財団があいつらの計画を阻止するみたいだ。そいつらの監視をあいつらに頼まれたからしばらくは帰ることができないんだよ」


ザックがしばらく戻れないと話すと、ティムは「はぁ⁉」と怒った表情がすぐに出ていた。


「まあ怒るなよ。これも奴らの依頼だしな」


ザックがティムをなだめた。


「それなら仕方ねぇな。嫌だけど。おいザック、懐中時計を持っているか?」


ティムはザックに懐中時計が無いか聞いた。


「懐中時計?」


ザックはポケットの中を探ると、なんと入っていたはずの懐中時計が無かった。


「悪い。落としちまったみたいだな」


ザックがなんと懐中時計を落としたと話すと、ティムはザックの臀部でんぶに蹴りを入れた。


「おい!アレは『VANISH』と関係がある大切なものなんだろ!お前それでも開発者かよ!」


「悪かったよ。必ず探すから」ザックがティムに謝り、街を歩いた。



その夜、蓮は拓也に与えられた部屋でスマホを見ながら恋人である翼とLINEのやり取りをしていた。


蓮はLINEでこんなことを書いた。


‘‘翼―、蓮さー1916年の沖縄に来ているわけーでねーなんか『アルバース財団』という変な組織に助けられたんだけど、どうすればいいわけ?いちお、なんかここわぁタイムマシンの中だし、WiFi繋がるから翼―にLINEおくっているけどさー‘‘


すると、蓮が送ったLINEには既読が着いてこんな返信が返って来た。


‘‘蓮!なんかよーもときーの友達が言うにはアルバース財団っていうのはタイムマシンを開発したり、歴史を変えるのを止めるタイムパトロールみたいなのをしてるってだから、悪い組織じゃないみたいよ‘‘


翼の返信はなんとアルバース財団を悪く言うものではなかった。


‘‘はぁ?もときーってソフト部のひがもときーな?あれの話とか信用出来んけど。ってかもときーの友達って誰よ?‘‘


という返信を送った。


‘‘わからんかー嘉手納のソフト部でエースだった兼村大和よーあいつ今、その財団の整骨院で働いているみたい‘‘


兼村大和?あの未来ーって子と苗字が同じだ。親戚なのかな?蓮はそう感じていた。


そしてスマホを持ったまま、蓮は蟹江校長の言葉を思い出していた。


思ったより綺麗な標準語‥‥



この時代の沖縄の人間は標準語が話せなかったのか?


そんなモヤモヤした気持ちを抱きながら布団を被って寝た。

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