第8話 ひめゆりの学校


 4人は路面電車を降りて沖縄県立高等女学校並びに沖縄県女子師範学校に着いた。

 思ったより校舎の敷地が広く、増築工事をしている様子が見えた。これからどんどんこの学校は校舎が増えていくのであろう。

 そこには今の沖縄ではまず見られない工事中の高架橋の下に路面電車が走っていく光景を目撃した。


「すげぇ」


「路面電車が走っている」


 未来と蓮はその光景に興奮しており、未来にいったてはカバンからスマホを取り出して写真を撮っていた。


「お前らこれを見にここに来たわけじゃねぇぞ。ほらさっさと行くぞ」


「わかっていますよ拓也さん。でも、今の沖縄じゃモノレールぐらいしか見られないから珍しいんです」


「珍しいからカメラで撮影したよ。おじさん後でお母さん達に見せるね」


「遊びに来たわけじゃないんだぞ。それに未来ーなるべくこの時代ではスマホなんか出すなよー」


 拓也に言われて2人は双樹並木がある校門へ向かった。


 校門の目の前に立つと、未来と蓮は小学校や中学校時代に訪れたひめゆり平和記念資料館に似た校舎だなと思っていた。


「この学校がどうなるかみんなわかるよね?」


 未来や蓮よりも沖縄の歴史に詳しくない本土出身の研究員の沙夜が他の4人に聞いた。5人はこの学校の結末を知っているので黙って校舎を見つめた。


「ひめゆり学徒隊になって殆どの生徒が亡くなるんだよね」


 未来ほど沖縄の歴史に詳しくない蓮でも小学校や中学校の平和学習でよく習う「ひめゆり学徒隊」は知っていた。


「そう高校生の頃、沖縄に無関心だった私が修学旅行で初めて訪れた場所が『ひめゆりの塔』だった。あそこは私がアルバース財団に就職する原点みたいなものだから。でも、とは思わなかった」


「さーやーまだ当時はっていう名称は広まっていないみたいだからできればこの時代では呼ばない方がいい」


 拓也は校舎を見ながら言った。


「そうですね金城さん。この時代の人には早すぎますね」


 沙夜が目を離すと、校門の隅に一輪の鉄砲百合が咲いていた。


「なんかこうしてみると不気味だね」


 未来は一輪の鉄砲百合を見ながら他の3人と共に校舎の中に入って行った。



 校舎は平屋の一階建てだが、思ったよりも広く作られており、趣のある木造の校舎という雰囲気であった。


「校舎の中、広っ、これって土足で入っていいのかな?」


 未来は履いていた草履のまま土足で入ろうとしていた。というのも周囲に下駄箱らしきものが無いからだ。


「いや、この辺りに下駄箱があるからどうやら靴を脱ぐみたいだ」


 拓也が下駄箱があると指を指すと、未来達は靴や草履を脱いで正面玄関に入った。

 正面玄関に入って右手に事務室があったが、そこには先ほど路面電車で見かけた女学生達とその家族が並んでいた。


「どうやら編入手続きをしているみたいだな。俺達も並ぶか。あっ、知花、じゃなかった。波平先生と柳先生は校長室に行って挨拶してくれ」


 蓮と沙夜は女学校の教師として校長室に向かった。


「おじさん、じゃあここで並べばいいんだね」


「義叔父さんじゃなくてお父さんだ。そうだここで並べばいい」


 未来は拓也に「お父さん」と直すようにと言われが、未来は拓也を「お父さん」と言うのがどうも慣れなかった。

 なぜなら、は2016年にいるからである。未来と拓也は事務室に並んだ。


 すると、彼らの目の前にいかにも怪しい外国人が4人いた。


 1人はアフリカ系アメリカ人の男性がすらりとした体型に似合うスーツに身を包んでいた。もう1人はアメリカ先住民の女性が『メリーポピンズ』に登場するようなワンピースに身を包み洋傘を持っていた。

 さらに1人はカールをしたようなショートボブの赤毛に緑の目をしたモデルのように綺麗な人がスーツを着ていた。

 そして彼らが連れていたのはくせ毛だが、2つ結びのマーガレットをした少女がアメリカ先住民の女性と同じようにワンピースを着ていた。


 彼女はぱっちりとした2重に綺麗な輪郭をした綺麗な顔立ちだった。事務員や並んでいる人達は彼らの異様な姿をじろじろ見ていた。

 なぜならこの時代、女性の洋装は珍しかったのと外国人のうち2人は当時のアメリカ社会において最下層であるのにも関わらず、ここでは上流階級のような恰好をしていたからである。


「ケィティー?」


「知っているのか?」


「うん。同じクラスのケィティー。友達だよ」


 すると、アフリカ系の男性が口を開いた。


「Hello Mr.Isyadou」


 男は拓也の潜入捜査での名前を知っていた。あっ、こいつも俺達と同じように潜入捜査に来たアルバース財団の者だと拓也は悟った。


「Hello」


 拓也はアフリカ系の男性に挨拶した。


「あっ、ケイティー?」


 未来は彼女を見た。


「みーあっ、久しぶり」


 ケイティーは思わず未来の名前を言いそうになった。


「久しぶり!ケイティーもここに来たの?」


「うん。お父さんが『世界のうちなーんちゅ大会』のための視察でわざわざ沖縄に来たのになぜか国際通りでタイムスリップしちゃって。カリフォルニア支部の人が助けてくれたよ!こっちでは宮城ウトゥーと名乗っているよ」


 ウタが控えに話すと、先住民の女性が日本語で金城拓也の耳元でささやいた。


「我々はアルバース財団カリフォルニア支部の人間であり、捜査員のエミリー・アメリア・ナカイ。苗字のせいでよく日系人に間違えられるが、出身はアリゾナにあるナバホネイションだ。私の隣にいるのはケイティー・メリア・カナハモク。ハワイ支部にいたカナハモク博士の娘だ」


「カナハモク博士の娘!?あの人に子供がいたんですね」


 拓也は財団職員のカナハモク博士の事を知っていた。確か彼は新都心がある本部で見かけた事がある。


「ええ。彼はカリフォルニア支部系列の病院で医者として勤務するマーティン・レイモンド・シール。元アルバース財団機動隊Tー0「死の舞踏」の副隊長を務めていた。

 カリフォルニアのオークランド出身。赤毛の彼は準職員でカリフォルニア大学に通うモーガン・ニーヴ・オレイリー。 間違えてもと呼ばないで。あくまでも


 エミリーと呼ばれる女性は拓也に告げた後、3人の後ろに並んだ。





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