第7話 女学校前
電車の内部は全て木製で作られており、その中には県外から転勤で来たであろう銘仙を着た女学生ら数人とその家族が座っていた。
「蓮さん、あの人達も転勤族だよね?」
未来は彼らを見て蓮に聞くと、蓮は「多分ね」と答えながら座席に座った。
その付近には
「この人すごいよ。小柄なのに箪笥を頭に乗せて持っている。肩痛くないのかな?」
未来は小柄な中年女性を見て蓮に言った。
「あの箪笥結構、重いから肩痛めると思うけど、すごいねぇ」
縁は小柄な中年女性を褒めたが、中年女性は未来達を見るだけで、特に話しかけてくることは無かった。
「なんだありゃ」
「母さん、なんで頭に箪笥運んでいるの?。」
「さあ、首痛くないのかしら」
近くにいた女学生達とその家族らは驚いていた。恐らく、東京では頭上運搬をする女性を見た事が無いのだろう。また、女学生の家族の1人であるスーツ姿の男性が中年女性の服装を見るなり、嘲笑うかのように「全く外でも見かけたが、沖縄の人間はみんな裸足だな」男はそう言うと、けしからんと言う表情で腕を組んだ。
「ええ、みんな草履すら履いていないわ」
「お父様、あの人どこに帯があるの」
男の妻や娘である女学生も特に咎める事も無く、中年女性を侮蔑の目で見ていた。
中年女性は日本語がわからなかったため、気付いていなかったが、拓也はそれを聞いてイラっとしたのか男を睨みつけた。その様子を見ていた沙夜がなにをしているんだと言う表情で拓也に声を掛けた。
「どうしたの?」
「実はあれなんか『沖縄の人は裸足だ』ってバカにしているもんだから
「でもあの時代の人ってそうじゃない?」
沙夜は当時の沖縄の人達の服装を見る限り、靴を履いている人は少なかった。
「確かにあの時代はそうだったかもしれない。でもな、俺の親父が若い時までそれは言われ続けていたから嫌なんだ」
拓也は「沖縄の人は裸足だ」という偏見にかなり嫌気が指していたようだ。
「そうなの?」
「そうだ・・親父は内地に出稼ぎで行った時、言われたらしいぞ」
「おじさん、いつもと違って怒っているね?」
「拓也さん、何に怒っているんだろう?」
未来は拓也が怒っている様子を蓮と共に見ていた。
そしていざ、出発してみると、結構揺れて乗り心地がかなり悪かった。
一緒に乗っていた女学生達やその家族も「なんだか揺れるわ」「東京の電車の方がいいわ」と文句を言っていた。
「なんかお尻が痛い」
蓮は余りにも乗り心地が悪いので途中から吊革に掴まって立っていた。
拓也や沙夜も蓮と同じような行動を取っていたが、未来は背が低いので、吊革に掴まらず、そのまま座っていた。
路面電車は裁判所前から若狭町、
「次は
電車の中から車掌の声が聞こえた。
「あっ、崇元寺だ」
未来は崇元寺を指さした。崇元寺は石垣の門とガジュマルの木が存在していた。また、今と違ってお寺のような建物があった。
「崇元寺?ここがどんな場所かわかるの?」
蓮は未来にここがどんな場所なのか尋ねた。
「王家の
「へぇ。そうなんだ」
「うん」
すると、電車は崇元寺の前で止まり、箪笥を頭に乗せた小柄な中年女性が崇元寺の前でゆっくり降りて行った。
箪笥を頭に乗せて持った女性は降りてもなお、歩いてどこかへ行った。
「なんかすごい人みたね。」
未来は箪笥を頭に乗せた女性の事が頭から離れられなかった。
「うん。あっ、あの人、まだ歩いているよ」
縁が歩く中年女性に指をさした。
「俺も昔、母親から『昔の女性は籠を頭に乗せていた。』という話を聞いたことがあるが、箪笥を乗せる人は初めて見た」
拓也も流石に箪笥を頭に乗せる女性には驚いていた。後からの情報によると、あの箪笥は「ケー」と呼ばれる荷物入れだったようだ。
路面電車は崇元寺を後にすると、県立高等女学校へ向かって行った。
「次は女学校前ー女学校前ー」
崇元寺を過ぎると、車掌のアナウンスが聞こえて来た。
「よし、降りる準備をするぞ。」
拓也が席を立ち、他の4人も席を立った。
「え?おじさん、降りるの?」
未来はキョトンとしていたが、電車の停留所には「女学校前」と書かれていた。
そして電車が女学校の前に付くと、一斉に女学生達とその家族らが降りた。
4人も彼らに続いて電車から降りた後、女学校の門へ歩いて行った。
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